Vol.7|京都府亀岡市 真福寺の水琴窟の音に涼む

Vol.7|京都府亀岡市 真福寺の水琴窟の音に涼む

7月下旬、どうしてもみたかった展示のために、京都国立博物館へ行きました。
とにかく暑い京都の夏、少しでも涼しい音を聞きたくて翌日はJR嵯峨野線に乗り込んで約30分。京都市の西隣の亀岡市にある真福寺を目指しました。

真福寺にはこれまで何度かお参りしているのですが、境内に2つの「水琴窟」があります。水琴窟とは、素焼きの甕などを地中に埋めて空間をつくり、その空間に滴り落ちる雫の音を反響させる仕掛けのこと。とても涼しげな水の音が聞こえます。「こんなに暑い日は、水琴窟の音を録音させてもらおう」そう思いつき、住職の満林晃典(みつばやし こうてん)さんに連絡をしました。

古くからの信仰の土地・亀岡

亀岡駅を降り、真福寺最寄りのバス停はどこだっけ?と思って満林さんに聞いてみると「おばた橋の横に神社があります。よかったらお参りしてきてください」とのことで、おばた橋で下車して神社の方へ向かいます。鬱蒼とした木々の奥にしめ縄のかかった社が美しく、その清浄な空気感に体感温度が1℃くらい下がったような気分。とても雰囲気の良い神社でした。

真福寺周辺にはこの神社のほかに穴太寺(あなおじ)もあり、古くから信仰の地であったことが窺い知れます。長閑な田園風景が広がり、山々に囲まれた静かな場所です。

そして、真福寺に到着!満林さんとの久々の再会も嬉しいです。

水琴窟と野球の音

着いて早々に本堂裏の水琴窟にマイクを設置したのですが、すぐ隣のグラウンドで野球のウォーミングアップが始まりました。水琴窟と野球の音の組み合わせも夏らしくて乙じゃないか、という気持ちもありながら、先輩が後輩に指導する声などが生々しく入ってきていたので(笑)一旦引き上げて本堂前の観音様の水琴窟に場所を変えました。

観音様の水琴窟は、蛇口を捻って水を流し続けるタイプ。水流の勢いの調整にコツがいるようですが、水が送られてくるのでいつまでも音を楽しむことができます。

石の隙間から、涼しげな水の音が聞こえてきます。軒先に吊られた風鈴も涼しい音を加えてくれます。どこからか蜂もやってきて、マイクの周りをブンブン飛んでいます。
なかなか良さげな音景色が広がっていることを確認して、RECボタンを押します。録音がスタートしたら、一旦その場を離れて本堂へ。満林さんとの雑談タイムです。

椿観音様の水琴窟

そもそも真福寺に最初に水琴窟ができたのは先代(満林さんのお父様)の頃だそう。真福寺には椿が自生していたため、椿を持った椿観音様をつくられたのです。 椿は美しく咲き、そして美しいままに花ごと落ちる。そのイメージを人に重ね合わせ「(拝めば)長生きをして美しく咲いたままにぽっくり逝く」それが椿観音様のコンセプトです。
観音様の下に水琴窟をつくり、手を合わせればあたかも観音様の声が聞こえてくるようなつくり。水琴窟の音は、観音様の声だという設定があったのですね。

昭和から平成にかけて水琴窟は様々な場所で作られましたが、メンテナンスを怠っていると良い音が鳴らなくなってしまうのだそうです。20年ほど前、椿観音様の水琴窟も良い響きが出なくなってしまっていたので、京都の造園屋さんにお願いしてもう一度作り直してもらったということでした。

その作り直しのプロジェクトに中心的に携わってくれていた若い庭師さんが、お寺の本堂裏のわさわさと草木が生い茂っているエリアを見て「次に私が来る時は、ここを綺麗にしましょうね」と仰ってくれたそう。満林さんとしても気になっていた場所だったので「ぜひお願いします」とお返事をしました。

しかし、その「次に来る時」の機会がないままに、残念なことに若い庭師さんは事故で亡くなられてしまったのです。

永代供養墓の水琴窟

その以前より、境内のどこかに永代供養墓を作ろうという話がありながら、どこに作るか迷っていたところだったので「これはなんか、ここかも」と、草木が生い茂っていたわさわさエリアを綺麗にして、永代供養墓を建ててその下に二つめの水琴窟を作ることにしました。「なんとなく、亡き方への想いというか、なんとなく」と仰る満林さんの雰囲気が印象的でした。

こちらは水琴窟の下にお骨を入れる場所があり、お水を供えることで亡き方やご先祖の声が聞こえるかのような仕掛けです。本堂前の観音様の声に対して、先祖の声であるという例えになのですね。この世のものではない音を、幽玄な水の音で例える。なるほどと思います。

永代供養墓の水琴窟は、柄杓で水をかけるタイプです。周囲の緑や石の部分に水をかけると、徐々に浸透していってすり鉢状に落ちていき、音が鳴る。水の音は徐々に強まっていきながら、だんだんと弱まっていく。20分間ぐらいかけて、そのグラデーションが楽しめる構造になっています。
作ってくれた造園屋さんは「今までで一番最高のものができた」と仰っていたそうです。

ここで、観音様の水琴窟から、永代供養墓の水琴窟にマイクを移動させます。周囲の石や土に水をたっぷりかけて、RECボタンを押し、静かにその場を離れて満林さんとのおしゃべりの続きに戻ります。

無意識のチューニング

水琴窟は地中での水の反響を聞く仕掛けなので、多くの場合は竹筒が地面に刺してあり、耳をあてて中の音を聞くようになっています。真福寺の水琴窟も当初はそのような作りでしたが、それだと耳をあてて「聞こえるか・聞こえないか」だけで終わってしまう。それはなんか違う。満林さんはできれば周りの音と一緒に水琴窟の音を聞いてもらいたいと考え、竹筒を外したそうなのです。

ラジオのチューニングを合わせるように、手を合わせて心落ち着けて自然の音に自分の波長を合わせていくと、なんとなく突然その音が聞こえるようになる。
逆に普段の生活のチューニングだと、水琴窟の音ってすごく聞こえづらい。また、水琴窟の音に波長を合わせることで、意識されていなかった他の音にも気づくような広がりがあり、新しい世界に気づく楽しみがある。

確かに、自分にも経験があります。以前参加した音のワークショップでは、町を歩きながらいろんな場所で耳をすます。じーっと同じ場所で耳を傾けていると、聞こえているはずなのに意識していなかった音に気づくことがありました。

満林さんは「無理に聞かなくてもいい」と言います。例えば真福寺で坐禅をされた方が、最初に椿観音様の前で手をあわせる。本堂に入って坐禅をして、帰るときにもう一度椿観音様に手をあわせると、「あれ、なんか綺麗な音がなってますね」と気づかれることがよくあるそうなのです。

もちろん、気づく人もいれば、気づかない人もいて、それは気づけなかったから悪いということでもない。それはそれでいい。それはその時の、その人にとっての音景色なのだから。

確かに、私は水琴窟の音を録りにきたけれど、風鈴や蜂や蝉、飛行機、野球の試合の掛け声などいろんな音が入っています。それはそれでいい。今日のこの時間にしか聞けなかった音たち。真福寺の2024年7月27日のお昼あたりの音景色。

みつばちの音世界

真福寺では養蜂も行なっています。みつばちの音も録ってみました。素手で巣箱にマイクを入れてくれた満林さん、、、ありがとうございます!

おまけ|道中寄るならこんな店

no-mu cafe(亀岡市大井町並河)
古民家をリノベーションしたおしゃれなカフェ。カレーが絶品でした。