信州からお蕎麦のはなし
信州に生まれて本当によかった。絶品蕎麦!
先日、長野市の善光寺のすぐ近くにある浄土真宗本願寺派の教務所(長野別院とも呼ばれるお寺)へ打ち合わに行ってきました。
ちょうどお昼頃に終わる予定の打ち合わせ。
「ランチにお蕎麦でも」と職員さんに誘っていただき、近所のお蕎麦屋さんでツヤツヤで風味豊かなお蕎麦をいただきました。
力強い蕎麦の香り。冷たい水でギュッとしめられ、喉を通る時ですら弾力を感じる絶品のお蕎麦…。
最高のランチタイムでした。
お店を出て、改めて善光寺の門前を見渡すと、お蕎麦屋さんの多いこと!
数百メートルの距離に20軒近いお店が軒を連ねています。
そういえば、有名なお寺や神社の周りにはお蕎麦屋さんが多いなぁと思い、お蕎麦とお寺の関係について考えてみよう!と様々な資料に目を通してみました!
「五穀」に入らない貴重な栄養源
蕎麦の原産は、中国南部からチベット周辺の山岳地帯と言われています。
日本では、縄文時代の遺跡から蕎麦の花粉が発見されているそうで、縄文時代には既に蕎麦の栽培が行われていたようです。
そこから時代は進み、鎌倉時代には製粉技術が臨済宗の僧侶「聖一国師」によって日本に伝えられます。
ただ、この頃は今の「そばがき」(蕎麦粉をお湯で練って食べる)が一般的な食べ方だったようで、今の麺になるのにはもう少し時間がかかります。
蕎麦は痩せた土地でもしっかり育つので、多くの人のいのちを支える作物だったようですが、僧侶にとっても貴重な栄養源だったようです。
ある宗派の僧侶は、修行中に五種類の穀物を断つという決まりがあり、蕎麦はこの五穀には含まれないため、修行中の僧侶の貴重な栄養源だったと伝えられています。
このお話から、お寺とお蕎麦は深いつながりがあることがわかりますよね!
「諸説」がありすぎる「そば切り発祥の地」
信州生まれ・信州育ちの私が、山梨でアナウンサーをしていた時に、衝撃を受けた取材がありました。
「そば切り(麺になったお蕎麦)発祥の地は、山梨県天目山だ!」という取材。
天目山というのは、山梨県甲州市大和町にある栖雲寺の山号でもあり、江戸時代にこの栖雲寺付近を訪れたとされる尾張の藩主が残した記録に「そば切りは甲州より始まる」という記述があるというのです!
その記録には「天目山に参詣する人々には、うどんを参考にしたそば切りが振る舞われた」とも記されていたようで、それが「そば切り発祥の地」の根拠になっているということ。
蕎麦といえば信州!と信じて疑わなかった私ですが、大変勉強になった取材でした。
しかし!
そば切りに関する最古の記述は、長野県の木曽郡にあるお寺、定勝寺に関する「定勝寺文書」だ!という発見もあり、「そば切り信州発祥説」も根強いのです!
この「定勝寺文書」には戦国時代の1574年に「仏殿修復の際にそば切りが振る舞われた」という記述があり、そば切り発祥の地の根拠とされています。
そのほかにも、京都の禅寺発祥説などそば切り発祥の地については「諸説ある」のですが、お寺がその舞台になっていることはとても興味深いなぁと思いました。
お寺は文化発信の拠点、僧侶は文化の伝え手
信州蕎麦に勝手に誇りを持っている私ですが、「そば切り発祥の地」がどこであろうと、今美味しいお蕎麦を食べられていることに感謝しかありません。
面白いのは、蕎麦は修行中の僧侶のいのちを支え、それが参詣者をもてなす食事となり、移動する機会も多かった僧侶によって様々な地域に伝えられていったということ。
お寺は仏教の宗教施設でもありますが、食文化の拠点であり、僧侶はその伝え手であったと想像するだけでワクワクしてしまいます。
そして、「そば切り」という形は全国共通でも、薬味やつゆに地域の特色が出ていて、様々な地域に「自慢のご当地そば」があるというのもお蕎麦の魅力ですよね。
ちなみに信州そばの私のおすすめは「胡桃だれ」です。
すりつぶした胡桃にお味噌を加えて、出汁で伸ばしたつけだれ。
善光寺門前のお蕎麦やさんで楽しめるので、新そばの季節、信州自慢のそばを味わいに是非いらしてください!