信州の伝統的工芸品「飯山仏壇」

信州の伝統的工芸品「飯山仏壇」

真っ白な雪と、お仏壇の金色と

2024年もあと数日。

長野県は本格的な雪の季節を迎えています。

この写真は、先日、長野県飯山市を訪れた時のものです。

飯山市は長野県の北東部にあって、新潟県と隣接しているとても雪深い地域です。

今月、お寺の用事で飯山市を訪れることがあったのですが、そこで気になったことが…。

飯山市には「仏壇通り」と呼ばれる、仏壇店が軒を連ねる通りがあります。

300メートルほどの距離に、びっしり、10軒ほどの仏壇店が並んでいるのです。

飯山ではお仏壇が作られていて、その技術も素晴らしい!ということはなんとなく知っていたのですが、金色のきらびやかなお仏壇が店頭にずらっと並び、その輝きが道路まで溢れるような仏壇通りを通ると、もっともっと飯山のお仏壇文化を詳しく知りたい!と感じて、今回詳しく取材させていただきました。

お話を伺ったのは、飯山仏壇事業協同組合の理事長、明石洋一さんです。

信州の伝統的工芸品「飯山仏壇」

まずは、様々な技術が詰まった「飯山仏壇」をご覧ください!

「豪華絢爛」とはこのこと!という、とても華やかなお仏壇ですよね。

飯山仏壇の特徴はたくさんあるのですが、まずは、とても華やかな装飾が目をひきます。

金箔が押され、戸の内側には蒔絵(金属の粉や貝殻の粉をのせて描く絵。)が施されています。

そして、奥行きがあり広々としている印象もあります。宮殿(仏さまを安置するスペース)がしっかり見えるように、長押(なげし:宮殿の上の彫刻部分)が弓のような形をしています。

「弓長押」と呼ばれるこの部分も飯山仏壇の特徴です。

そして、目には見えない部分ですが、飯山仏壇は全て分解できるというのも大きな特徴です。

分解した部品を洗浄して、再塗装することができるので、長い時間美しい状態を保つことができます。

そんななか、私が特に心惹かれたのは蒔絵です!

ぷくっとした質感、角度によって変わる色味。その柔らかい雰囲気に見入ってしまいました。

 

城下町、仏教のまち、物流の要所

飯山でお仏壇づくりが始まり、地場産業となったのはかつて城下町として栄え、さらに千曲川の船便の起点であったため物資がとても豊かで、お仏壇の原料である木材も豊富に採れたからと考えられています。

また、室町時代には北陸地方から浄土真宗が伝えられ、仏教信仰のあつい土地柄ということも大きな要因とされています。

ただ、明石さんによると、近年はお仏壇を新たに購入する人が減っているそうです。

確かに、集合住宅が増えて、居住スペースが限られる現代の環境では、仏間を作って、大きなお仏壇を置いて…というのは難しいですよね。

また、お仏壇はとても高価なものです。

経済的にもお仏壇を買うというハードルが高くなっているのが現実です。

現代のニーズに合わせアップデート

お話を伺った明石さんは、組合の理事長であり、仏壇店の社長でもいらっしゃいます。

最近明石さんが取り組んでいるのが、お仏壇のリフォーム。

「実家にあるお仏壇を、新居に合わせた形に変えて持ち続けたい」というニーズが多いそうです。

そこで、お仏壇を新居のスペースにあったサイズに直して収納したり、キャスターをつけて移動を可能にしたりと、オーダーメイドのリフォームを手掛けているそうです。

飯山仏壇は部品が取り外せるため、その時その時のニーズに柔軟に対応できるのも魅力だそうです。

変わることと、変わらないこと

素晴らしい伝統技術があっても、時代によっては人々の関心が他に向いてしまうことは多々あります。

お仏壇もそのひとつで、お仏壇を持たない人の方が多いのが今の時代かもしれません。

今回の明石さんのお話で、とても心に残っているものがあります。

明石さんの「時代や社会は変わるけど、人が亡くなることは変わらない」という言葉です。

「コスパ」「タイパ」が最優先の現代。

経済的、時間的に最も効率の良いものが選ばれる時代に、お仏壇への関心は薄れているという現実があります。

ただ、「お仏壇を捨ててしまうのはなんとなく気が引ける」とか「亡くなった大切な人に思いを寄せられる、非日常のスペースや時間が欲しい」といった目には見えない、「なんとなく」としか言葉にできない思いを抱くのは、いつの時代も変わらない、人間の思いではないでしょうか?

そこに向き合っていくのが、仏教や僧侶の役割なのかなぁ…と感じた飯山仏壇の取材でした。