お坊さんが電気を届ける理由――TERA EnergyとSOCIAL TEMPLEが描く、応援がめぐる未来
TERA Energy株式会社、という電力を販売している会社があります。
設立当初、メディアには「お坊さん4人が始めたエネルギー会社」として紹介されてきました。そんな僧侶が立ち上げた電力会社テラエナジーは、創業当初から 電気代の一部を社会活動へ寄付する“寄付つきでんき”という仕組みで、日々の暮らしから全国各地の地域を支える応援の輪を広げて続けております。
一方、私たちSOCIAL TEMPLEも、地域課題を中心に多様な人が集まり学び活動し合うお寺、「“建物なき寺院”」として、子ども食堂や若者の居場所づくりなど、地域課題に向き合う活動を続けています。
今回の対談では、お互いに「僧侶」という立場で、仏教の教えを背景に小売り電気事業に取り組まれている、TERA Energy株式会社の竹本 了悟(たけもと りょうご)社長と、一般社団法人SOCIAL TEMPLEの近藤 玄純(こんどう げんじゅん)代表のお2人に、「応援がめぐる社会」や「誰もがゆるやかに関われる地域のかたち」について語っていただきました。
聞き手:一般社団法人SOCIAL TEMPLE オンライン・広報事業部嶋田 尚教(しまだ ひさのり)
一般社団法人SOCIAL TEMPLE 嶋田尚教(以下、嶋田)
このたびは、お時間をいただき、ありがとうございます。
一般社団法人SOCIAL TEMPLE(以下、SOCIAL TEMPLE)は、TERA Energy株式会社(以下、テラエナジー)の「寄付つきでんき」の寄付対象団体「ほっと資産団体」として登録いただき、多くの応援を届けていただいております。いつもありがとうございます。
そこで、今回はテラエナジーの代表である竹本様の想いや思い描いている未来、そして同じ僧侶で、SOCIAL TEMPLE代表の近藤の活動を見て感じていることや考えていること、そしてお互いが考えている未来について語り合っていただこうと思います。
よろしくお願いいたします。
TERA Energy株式会社 竹本 了悟氏(以下、竹本氏)
よろしくお願いします。
一般社団法人SOCIAL TEMPLE 近藤 玄純(以下、近藤)
よろしくお願いします。
嶋田
では早速ですが、テラエナジーについて、竹本さんからご紹介いただけますか?
竹本
はい、わかりました。
当社テラエナジーは、僧侶で立ち上げた電力会社です。お寺の「寺」から名前を取って「テラエナジー」と名付けました。電力の小売を行う、いわゆる新電力会社です。

もともと僕は、取締役の一人である霍野(つるの)くんたち仲間と一緒に、自殺相談センター(筆者注:認定非営利活動法人京都自死・自殺相談センター Sottoのこと)を10年ほど運営していました(筆者注:Sotto設立は2010年10月20日)。
相談は常に逼迫していて、スタッフにも十分な給与を払えず、新しい居場所や窓口を増やす余裕がありませんでした。
そんなとき、ドイツの地域新電力「シュタットベルケ」の話を聞いたんです。インフラ事業は大きなお金が流れ続けます。その一部を収益性の低い事業や、私たちのような非営利活動に回すことができれば、安定した経済循環がつくれると知りました。
日本も電力自由化が始まったばかりで、私たちでも電力会社を作れると聞き、「寄付つきでんき」という仕組みを思いつきました。そして、2018年6月に起業しました。
嶋田
今年で8年目に入ったところですね。「寄付つきでんき」を考えた当初の思いは何だったのでしょうか?
竹本
僕は自殺相談センターを長くやってきて、その活動内容には自信があります。孤独感を和らげ、安心してもらえる支援ができていると感じています。
ただ、スタッフは資本主義的なビジネスが苦手な人が多い。感性が敏感だからこそ相談活動に向いているのですが、「自殺相談でお金を集める」のは無理があると思っていました。
一度、産業カウンセラーの様な役割を企業へ提供するサービスのビジネス化を考えたこともあります。でもそれだと、相談者ではなく会社側を優先せざるを得ない構造になります。理念が違う組織と一緒にやるのは難しいと実感しました。
だからこそ、自殺相談の活動は純粋な形で成立させ、別の手段で資金を得る必要がある。パトロンを探すか、全く別の収入源を作るしかないと考えました。
そこでたどり着いたのが、「寄付つきでんき」のサービスです。ビジネスとしてお金を回し、応援先には一切口を出さない。その仕組みを提供しています。
お坊さんがお金稼ぎ?「坊主丸儲け」批判への応え
近藤
僕らも、お寺が直接的に社会活動をするのはマンパワーや資金面で難しい。だから、浄財を集めてNPOや非営利団体に回す形を取っています。
でも、日本社会ではこの「お金をどう回すか」が課題になりがちです。竹本さんのスキームは、批判をかわしつつ効率的に循環を作れる点が素晴らしいと思います。
竹本
ありがとうございます。創業当初は「この仕組みって、どういうこと?」と首をかしげられることが多かったです。
相談センターの総会で「安定した経済基盤を作るために電力会社をやる」と話しても、反対はされませんでしたが、「そんなことできるの?」「ビジネス経験ないのに大丈夫?」という、どちらかといえば「現実的なのか?」という反応ばかりでした。
近藤
SOCIAL TEMPLEもそうですが、直接的な説明が難しい活動は、理解されるまでに時間がかかりますね。
竹本
そうですね。ないものを作ろうとしているので、やる本人は方向性を描けていますが、周りには突然降って湧いた話に見える。想像が追いつかないのだと思います。
近藤
仏教教団の歴史を見ても、直接ではなく迂回的な方法でお金や支援を回してきました。それが資本主義の直接的な交換とは違う分かりにくさにつながっていると思います。
竹本
2010年に自殺相談センターを作ったときも、「1年で終わるだろう」と陰で言われていました。何かを始めたときには、そういうことを言われるものだと割り切っています。むしろ反応がない方が逆に心配になります。
近藤
そうですね。無反応はスルーされているのと同じですから。
竹本
ハレーションが起きるのは、業界の大きな課題に触れている証拠なのかも知れません。
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嶋田
ここまで、テラエナジーがどのような歩みがあり、どんな事業をしているのか、の話を伺いましたが、ここで一度SOCIAL TEMPLEのご紹介をお願いできますか。
近藤
SOCIAL TEMPLEは2016年、坊主道という僧侶団体から始まりました。今は一般社団法人になり、団体は8期目になりました。
お寺の本来の意味である「修行者の集団」を、人の集まりとして再定義し、お坊さんもお坊さんでない人も一緒に社会課題に向き合っています。

具体的には、仏教・お寺メディア「お寺のじかん」、こども食堂「寺GO飯」、高齢者の相続など支援プロジェクト「ゆくすえサポート」などを行っています。最近は県の委託事業として高校生たちとの居場所作り「放課後Café Labo」も始めました。
多くの方が「お寺」や「お坊さん」でイメージするお葬式や法事だけではなく、生老病死すべてに関わることを目指しています。
「ゆるやかで主体的参加ができるやさしい地域社会を目指して」

竹本
SOCIAL TEMPLEは「ゆるやかで主体的参加ができるやさしい地域社会を目指して」というビジョンがおありだとききました。
近藤
僕はお坊さんの家に生まれましたが、僧侶になりたくなかったんです。
きっかけは地下鉄サリン事件。宗教は人を支えるはずなのに、なぜ対立を生むのか疑問でした。
宗教は押し付けではなくグラデーションであるべき。浜辺の水際から深い海まで、自分の主体的な意思で進むのが理想です。強制ではなく、その人の状況に合わせて関われる、寛容な社会を目指しています。
竹本
すごく共感します。主体性とゆるやかさは大事です。テラエナジーでは仏教思想をベースに会社経営や研修を行っています。
私はお寺の次男坊で僧侶になるつもりはなく、自衛官など「べき論」の世界で生きてきました。仏教に出会って自分を大切にできるようになり、内側から出てくる感情に素直に生きられるようになったんです。
当社では月1回「お悟りタイム」という研修を行い、スタッフがやりたいことを探り、それを試せる日を作っています。応援されると人は生き生きしますし、それが仏教が提供してきたものだと感じます。
近藤
人間は不完全で、仏教の考え方を少しずつ取り入れる人もいれば、そうでない人もいます。でも大事なのは、頑張っている人を認めること。相手を認めることは自分を認めることにつながります。
竹本
人間には嫉妬心があります。仏道はその感情を自覚しつつ、ちゃかしたり陰口を言ったり、邪魔をするような行動は取らないことだと思います。応援はコストがかからず、優しい社会を広げます。
気が付いたら仏教の話に…「嫉妬や感情との向き合い方」
近藤
好きな人の悪いことも指摘し、嫌いな人の良いことも評価する。それが感情論を超えてフラットに物事を見る姿勢です。
感情は本能的に湧きますが、反射的に動くのではなく、一度認めてからどう行動するかを選ぶことが大事です。
竹本
残念ながら、人は嫉妬や良くない感情を持ってしまうものです。気づけばそれで済みますが、気づかないと攻撃や人を傷つける方向に出てしまう。だからこそ、自分が今どう感じているかを素直に受け止めることが大切です。
近藤
感情は遺伝子レベルで搭載されている、生存のための本能です。湧いた感情を否定せず認めることが大事です。例えば街でついつい自分の目についた気になる人を見てしまうのも本能。それを行動に移さないのが人間としての選択です。
修行とは、この反応と行動の間に距離を作る練習だと思います。
竹本
仏教は複雑そうで実はシンプルです。お釈迦様も「人を殺してはいけない理由」を聞かれて、「自分が殺されたくないから」と答えています。
自分がされて嫌なことはしない、嬉しいことはする。それを感情の揺れの中でも実践するにはトレーニングが必要です。
近藤
決めるのは快楽であり、煩悩でもあります。すぐ白黒つけたくなりますが、判断を保留して双方の立場から考えてみることが、今の分断の時代には必要です。ネットでの論争なども、すぐ決めずに想像力を働かせることが大切です。
竹本
経営では即決が必要な場面もありますが、あえて待つことで第3の選択肢が見えてくることもあります。現代ではストレスがかかる姿勢ですが、対話的であり続けるためには必要だと思います。
地域との距離感
嶋田
テラエナジーの「寄付つきでんき」、そして我々SOCIAL TEMPLEの活動は、地域社会とも深く関わります。
お互いに学び合える部分や、手を組めそうなこと、そしてお互いで描いて行きたい未来はありますか?
竹本
当社は取締役が3人とも僧侶ですが、出自が全く違います。
僕は田舎やお寺に縛られるのが苦手で、土地に根を下ろすことに抵抗があります。子どもの頃にいじめられたり、お寺で嫌な思いをしたことがあるからかもしれません。
一方で、大阪の本多くんや九州の霍野(つるの)くんは、お寺も地域も大好きで、根を下ろして生きています。
僕はそういう姿勢を素敵だと思うし、この両方があるのが良いと思っています。
近藤
僕も竹本さんと同じで、都会派です。お寺が嫌でたまらなかった時期もあります。
活動を続ける中で、自分の足りなさを痛感することも多い。そういう意味では、コンプレックスや償いの気持ちが活動の原動力になっている部分もあります。
仏教は他者を通して自分を映し出してくれる。だからこそ、向いていないと思っても続ける意味があると感じています。
竹本
地方コミュニティは、時折、あるがままでいようとする存在に、フタをされるような感覚があります。今風に言えば、クリエイティビティを阻害される。自由な発想が「それはダメ」と抑え込まれる。だからこそ、完全にそこに根を下ろす気になれなかったのかもしれません。
近藤
地方は閉鎖的で、新しいことをやろうとすると「余計なことをするな」と言われがちです。でもそれは、生存を脅かされると感じるからこその反応だと思います。
そう考えると、世の中に本当の悪人はあまりいないんじゃないかという見方もできます。
竹本
そういう見方をすると、人を許せるし、お互いに歩み寄れる感覚が持てます。
「性質としてそうなんだから仕方ない」と手放すのも仏教の知恵ですね。
世代交代とこれからの社会

近藤
私の地域では、50代半ば以下は新しい試みに肯定的で、それ以上の世代は否定的な方が多い。世代の切り替わりの境目が見えます。
今は時代の転換期で、自分にとっては、未来がまだまだ長い中高生がうらやましいと思っています(笑)。明治維新のような大きな変化の時代を生きていて、新しいルールを作っていける世代ですから。
竹本
僕たちはまさに流動期にいて、面白いことができる時代にいます。地域社会の分断を越え、対話を通じて新しいつながりを生んでいきたいですね。
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終始、和やかに雑談も交えながらの対談となりました。
お坊さんが考える経営論、仏教を通して見えてくる「地域との距離感・付き合い方」、そして地域社会の未来について、お二人の視点からお話しいただきました。
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TERA Energy株式会社の「寄付つきでんき」利用申し込み受付中!
「寄付つきでんき」は、毎⽉の電気料⾦を⽀払うことで、あなたの⾝近にいる、さまざまな社会課題に取り組む団体の活動を応援することができる仕組みです。
お客様の毎月の電気量料金(税抜)の最大2.5%を【ほっと資産】として管理し、年に1回、お客様自身で選択いただいた寄付先である【ほっと資産団体】にテラエナジーが寄付をします。
【ほっと資産団体】は2025年9月現在、150団体を超えました。
わたしたちは「 寄付つきでんき」で、想いの込もった活動に資⾦が循環し、【ほっと】できる温かなつながりが紡がれる社会を創っていきたいと思っています。

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一般社団法人SOCIAL TEMPLEは、多くの方の応援によって活動を続けております。
この記事を掲載している「お寺のじかん」もその1つ。
これからもあなたに「仏教・お寺」に関する情報をお届けできるよう、少しでもよろしいですので、ぜひ応援のご寄付をいただけますと幸いでございます。
なお、寄付については、クレジットカードでの決済も可能です。また、領収証をお出しすることができます。毎年事業報告書をお届けいたしますので、あなたが寄付いただいたお金が何に使われているのか、もわかります。
ぜひ少しでもお気持ちいただけるようでしたら、下記のページをご覧いただければと思います。
