お寺さんの音景色 Vol.12|東京都中央区 築地本願寺 生まれたてのパイプオルガンの音

お寺さんの音景色 Vol.12|東京都中央区 築地本願寺 生まれたてのパイプオルガンの音

お寺にパイプオルガン!?

東京都中央区にある築地本願寺。毎日多くの参拝者が絶えない有名寺院ですが、この本堂にパイプオルガンがあることをご存知の方はどれくらいいるでしょうか?

ご本堂に入ってすぐに後ろをふりかえって見上げると、無数のパイプが天井にむかって伸びています。パイプオルガンと言えば、教会にあるものというイメージですよね。お寺には不似合いに感じるかもしれませんが、インド様式を取り入れたエキゾチックな外観を持つ築地本願寺の本堂においては、なんとも違和感なく溶け込んでおり、まさに建物の一部になっています。

しかし昨年、本堂の一部であったパイプオルガンが老朽化のために、新しいパイプオルガンへとリニューアルを遂げました。私の記憶の中にある「あの」パイプオルガンを新しいものに置き換えるなんて、さぞ大変なプロジェクトだったのでは?と、まずは築地本願寺さんの英断に驚きました。

一体どのようにして置き換わったのか?そして、新しいパイプオルガンの音を聴かせてもらうべく、築地本願寺へとお邪魔しました。

時を経て生まれ変わる音

初代パイプオルガンが設置されたのは1970年。寄贈したのは現在も活動を続ける「仏教伝道協会」という組織でした。創設者の沼田惠範さんが、アメリカの教会で聴いたパイプオルガンの音に感銘を受け、日本でも仏教音楽を広めたいという思いから「お寺にパイプオルガンを」という発想が生まれたとのことです。

それから半世紀。築地本願寺のご本堂でおこなわれる法要や、ランチタイムに開催されるコンサートなどで、その美しい響きを伝えて続けてくれました。
私の個人的な初代パイプオルガンとの思い出は、2000年代に築地本願寺でおこなわれていた音楽フェスティバル「他力本願でいこう!」にスタッフとして関わっていた時、前衛的な音楽家のジム・オルーク氏や、大友良英氏がパイプオルガンで披露した美しい演奏が忘れられません。

きっと、これまでお参りされてきた人々の心の中の「築地本願寺の音景色」として、パイプオルガンが果たしてきた功績は大きなものであるはずです。

その大切なパイプオルガンが、長年の使用により故障が増えてきて、やがて新しいオルガンへの更新が決まったのだそうです。

(写真は、丁寧に額装された初代パイプオルガンのパイプたち)

海を渡ってやってきた 二代目パイプオルガン

新しいパイプオルガンはイタリアの工房で製作されました。
完成後、2566本のパイプを含む部材はすべて分解され、木箱に収められて船で日本へ運ばれます。しかし、海の旅は予定通りには進みません。寄港地ごとに足止めされ、到着は遅れたのだそうです。

「今どこにいるんだろう、とずっと船の位置を確認していました」

そう話すのは築地本願寺職員の西永亜紀子さん。
ずっとパイプオルガンのお世話担当だった西永さんや、築地本願寺専属のオルガニストたちは、まだ姿を見ぬ音を待ち続けていました。

プロジェクトが進む中で、初代オルガンとの別れもありました。2025年1月「ありがとうコンサート」が開催され、多くの人が最後の響きを聴きました。

その後、解体が始まります。長く本堂にあった音の源が、少しずつ姿を消していく。

「手がかかる子ほどかわいい、という感じでした」

そう語る西永さんは、解体の様子をオルガニストたちと共有しながら、親のような気持ちでじっと見守りました。

夜の本堂で作られる響き

パイプオルガンの部材が築地本願寺に届くと、イタリアから来日した職人たちによる組み上げが始まりました。
作業は参拝者のいない夜から早朝までの時間帯。静かな夜の本堂に、工具の音や試し弾きの音が響いていたのでしょう。幻想的な音景色を思い浮かべたくなります。

組み上げ後に特に重要なのが「整音」という工程だそうです。
調律とは違って、空間に合った独自の音質を作り上げていく作業。職人たちは、柱の反射、天井の高さ、空気の流れを感じながら音を整えていきます。気温や湿度、季節の変化によっても音は変わるのだそう。そのため、数年かけて調整を続けていく必要があります。

まるで、生まれたての赤ちゃんを育てていくかのような工程です。
今後も、オルガニストたちが演奏しながら違和感や気付いた点を見つけ、イタリアの工房とやり取りしながら整えていく。音は、時間とともに変化・成熟していくのでしょう。
つまり、今聴く音は決して完成形ではなく「成長途中の音」なのです。

まずは「生まれたて」の音を録音させてもらいましたので、聴いてみてください。演奏は、築地本願寺 職員の西永亜紀子さんです。

築地本願寺のご本堂でしか体験できない音景色

パイプオルガンは建物と一体の楽器です。
録音では伝わらない、空気の震え、身体に届く低音、天井から降りてくる余韻。やはりこの築地本願寺という場所で聴く体験が、何にも代えがたいと感じます。

本堂に座り、耳を澄ませる。すると、建物全体が静かに呼吸するように鳴り始めます。

そして、50年の記憶を受け継ぎながら、新しい音が少しずつ育っていく。その途中の響きを体験できるのは、今だけかもしれません。

築地本願寺では毎月、ランチタイムコンサートが開かれています。予約も不要で、ふらりと立ち寄ることができます。
新しいパイプオルガンが織りなす音景色を、ぜひ体験してみてください。

Link|築地本願寺 パイプオルガンコンサート
https://tsukijihongwanji.jp/enjoy/lunchtime-concert/