お寺さんの音景色 Vol.14|World Listening Day 2026 in Yokohama「お寺の音景色」が音楽になった日

お寺さんの音景色 Vol.14|World Listening Day 2026 in Yokohama「お寺の音景色」が音楽になった日

World Listening Dayとは

連日、溶けるような暑さが続いていた2026年7月18日。この日の午後、横浜では短い雨が降り、あがった後には風がでて少し過ごしやすくなりました。

15時をまわる頃、黄金町・大岡川近くに位置する八番館という建物で「World Listening Day 2026 in Yokohama」というイベントが開幕しました。

「World Listening Day 」とは、音を通じて環境を考える「聴覚環境(アコースティック・エコロジー)」や「音の風景(サウンドスケープ)」の提唱者、R.マリー・シェーファーさんの誕生日にちなんで制定されたもので、毎年7月18日には世界各地で音にちなんだイベントが開催されています。

この連載のタイトル「お寺さんの音景色」は、まさにマリー・シェーファーさんの「音の風景」に由来したネーミングです。

2026年「World Listening Day 」のテーマは「Listening as Practice(『聴くこと』を実践する)」です。

私は、野外録音をアートとして表現するグループ「Tokyo Phonographers Union(東京フォノグラファーズユニオン)」の一員として、各地のお寺で録り溜めてきた音源を携えてライブセッションに臨みました。

耳をひらく “実践”・街の音に潜む “臨場感”

ライブに先立ち、まずは参加者10数名でフィールドレコーディングのワークショップを行いました。音楽家のマルコス・フェルナンデスさんによるレクチャーの後、外へ出て周辺の音を各自が録音します。マイクとヘッドフォンを介して黄金町の街に耳をすますと、驚くほど多種多様な音に溢れていることがわかります。

高架を走る電車の轟音、高架下のバスケットコートで弾けるボールの音、少年たちの靴音。マンホールの奥を流れる下水の音や、川面に浮かぶブイが岸壁に当たる人工的な音。

面白かったのは、電車の音を録音してすぐに再生した時のことです。ヘッドフォンから流れる音があまりにリアルで、実際には来ていないはずの次の電車が頭上を走っているような錯覚に陥りました。

また、橋の上から川の先へマイクを向けると、音をさえぎる壁のない開放的なサウンドスケープが広がっていることに気付かされます。

録音した音を会場に持ち帰り、皆で聞きながら感想を伝えあいました。参加者の中には「はじめてフィールドレコーディングをした」という方も多く、それぞれの音に新鮮な感動がありました。

1stセット「音の巡礼」ソロ

18時になると、2階でいよいよTokyo Phonographers Unionのライブが始まります。

私のソロパートでは、これまでこの連載で取り上げたような音や、お寺の取材で出会った音を編み直していきました。

まずは愛媛県・大下島の早朝の海の音から始め、大阪の法華宗のお寺で録らせていただいた霊水の湧く音を重ねます。さらに、以前取材した「出張寺」法源寺 東京別院での御祈願のお経を響かせ、続けて子どもたちが一生懸命に演奏する木琴やリコーダーの音が重なる盛り上がりの中で、京都・真福寺の蜂たちに羽音で共演してもらいました。

2ndセット「お寺の音景色」が音楽になる

後半のメンバー全員での合奏では、さらに多様な音が混じりあいました。

私が使ったのは、東京のお寺での今年のお盆のお経、6月の「施餓鬼」の法要の響き、さらには築地本願寺のあたらしいパイプオルガンの音も加えました。

圧巻だったのは共演者のカール・ストーンさんが、私が流したお経の声をリアルタイムでサンプリングし、エフェクトをかけていった瞬間です。 伝統的な文脈の中にあった祈りの声が、その場で解体・再構築されサウンドスケープと溶け合い、夢か現かわからなくなってきます。それはもはや単なる「お経」ではなく、ひとつの「音楽」へと変容していると感じました。

ここで感じた面白さは、音によって時間や空間をいとも簡単に超越できるということです。

かつてどこかのお寺で、ある瞬間にだけ響いた「祈り」が、マイクとスピーカーを介して別の場所に出現し、そこにある音景色に重なり合う。

お寺という枠を飛び出した音が、時空を超えて誰かの耳に届くことの不思議さを、演者も観客も一体となって体験した時間でした。

結びに

今回のイベントを通じて、お寺の外の世界でも、お寺の音が新鮮な驚きや喜びをもって楽しんでもらえることを実感しました。お寺の日常に潜む音が、音楽的表現の一部となり、誰かの感性を刺激する。そのこと自体に、私は大きな意義を感じています。

来年の「World Listening Day」に向けて、またお寺の音を新たに録りに出かけたいという思いを強くしました。

読者の皆さんも、次にお寺にお参りする際はいつもより少しだけ耳を澄ませてみませんか。そこには、まだ体験したことのないような素晴らしい音景色が広がっているかもしれません。