第1回[あなたの街のお寺さんぽ]  身延町・常幸院

第1回[あなたの街のお寺さんぽ] 身延町・常幸院

「命」を伝え続ける「常幸院」住職・深山光信の想いとは

日本三大急流のひとつ、「富士川」が町の中心を流れる山梨県身延町。

西嶋の和紙やあけぼの大豆、千円札と同じ風景が見られるという本栖湖に加え、近年では人気アニメ「ゆるキャン△」の舞台になるなど、豊かな観光資源がある町としても知られている今注目のエリアです。

今回訪れた「曹洞宗金龍山常幸院」は、武田信玄の隠し湯とも噂され古くから親しまれてきた身延町下部温泉のすぐ近くにあります。

27代目、現住職である深山光信さんに「常幸院」のこと、そして深山さんの活動についてお話を伺ってきました。

▲町の中心を流れる「富士川」。自然豊かな美しい場所です

常幸院とは?

「常幸院」は、室町時代初期の1360年代頃「梅林禅芳(ばいりんぜんぽう)」が開山したことに始まります。

かつて大陸から伝来した曹洞宗は「禅宗」と呼ばれ、もちろんここ「常幸院」も「禅(悟り)」を重んじています。

「どうぞ中へお入りください」

上品な笑顔で客間へと招いてくれたのが、現在このお寺の住職を務める・深山光信さん。

「禅と言うと皆さん座禅を思い浮かべるかと思うのですが、私たちは、日常のこと全てに感謝を込めてそして、丁寧に行うことを禅としています。

座禅に等しく日常の全てが大切なことなのです。

人間として生を得るということは、自分の命を大切にするだけでなく、他の人や物の命も大切にしていくということ。

日々の生活には意味があることを伝えています」

と教えてくれました。

▲優しい笑顔と美しい所作が印象的な「常幸院」の住職、深山光信さん

 

「常幸院」は長年、地域の皆さんや檀家さんと連携をとりながら歩んできた歴史のあるお寺です。

しかし、これまでの道のりは決して容易ではなく、時代の流れと共に「常幸院」を訪れる人は減少。

深山さんがお寺のおつとめを始めたときには、お世辞にも活気があるとは言えなかったと話してくれました。

▲大きな力で守られていることを感じられる、山門と仁王像

▲山門からまっすぐ進むと目の前に立派な本堂があります

 

自ら選んだ「お坊さん」の道

山梨県甲府市で生まれ育った深山さん。

祖父が「常幸院」の住職をつとめていたことから、幼い頃よくこの場所を訪れていたと言います。

「お寺に来ていたというよりは、おじいちゃんの家に来たという感覚ですよね。

思春期の時くらいでしょうか。日々の生活が忙しくなってきたこともあり、お寺へはほとんど訪れなくなりました。

将来、お坊さんになるなんていうことも当時は全く考えていませんでした」

自宅近くの高校へ通い、大学へと進学をした深山さんが卒業を目の前にふと思い浮かべたこと、それが「常幸院」だったそう。「お寺を引き継がなくていいの?」そう家族に問うと、住職であったおじいちゃんは、「お前が決めて良いんだよ」と答えたそうです。

「家族に話した時、すでに自分の中では答えが決まっていたのでしょう。

仏教を全く学んで来なかった私ですが、お坊さんを目指すことにしたのです」

こうして、深山さんは大学卒業と同時にお坊さんを志し、日本に2つある本山、福井県「永平寺」と神奈川県「總持寺(そうじじ)」のうち、「總持寺」へ修行に出ました。

「總持寺」には、深山さんが修行していた当時、200人に及ぶ修行僧がいたそうです。

曹洞宗の教えの通り、「禅」を重んじて毎日を丁寧に繰り返すという日々を送りました。

その日の担当によって、夜中の2時に起きて朝ごはんを作るなんていうときもあったと言います。

修行の期間は人それぞれですが、深山さんは約2年半という日々をこの「總持寺」で過ごしました。

地域の命が集うお寺でありたい

修行を終え、25歳の時「常幸院」に入った深山さん。立派な本堂や鐘楼堂(しょうろうどう)のある広い敷地にも関わらず、あまり人の気配を感じられない場所だったそうです。

セレモニーホールが充実いている時代であることもあり、お葬式を挙げる檀家さんもいなくなっていたのです。

深刻な「お寺離れ」を感じた深山さんは、設備を整えることを始めました。

スロープを付けたり、客殿にテーブルと椅子を設置したり、出来ることを少しずつ進めていったのです。

▲お葬式の後席や法事にも活用できるように客殿を整えました

そして同時に、「毎月一回行事をする」という目標を掲げ、春の花まつりには「落語会」や「三味線コンサート」を行ったり、夏には「子ども禅の集い」という子どもの宿泊体験を行ったりするなど、人の訪れるお寺へと変化させていきました。

▲春の行事「花まつり」の様子

▲「落語」を楽しむこともありました

▲夏の恒例行事「子ども禅の集い」には年々多くの子どもたちが参加するようになっています

▲「常幸院」で過ごす一泊二日の丁寧な暮らしを通じて、子どもたちは「命」の大切さを学びます

「活動を始めて5~6年経った頃からお葬式を挙げてくれる方が増えて来ました。

現在では、約8割の檀家さんがここでお葬式を挙げます。

お寺での葬儀は、それなりに大変なところもあるかもしれませんが、とても思い出になると言ってくださることに感謝しております。

イベントに対しても意味を持たせ、命の大切さを伝えられる場として活動しています。お子さんが仏壇に手を合わせるようになったと聞いたり、夏の灯籠流しに近所の人が参加してくださったりすることが何よりも嬉しいです」

と深山さんは、自身の活動について話してくれました。

▲幻想的な世界を作り出す夏の灯籠流しには、地域の方も参加してくれます

 

超宗派仏教徒「坊主道」との出会い

「仏縁」を紡ぐことが大切

日頃から、お寺に訪れる人のため、仏教を伝えるため、命の大切さを伝えるために勢力的に活動している深山さん。

「仏縁ですよね」彼は、坊主道との出会いをそう話します。

どんなに頑張っても1人でやれることには限界がある。

それでもこのように同じ気持ちを持つ何人かが集まればそれはやがて大きな力へと繋がっていく。

深山さんはそんな風に感じていると言います。

まだまだ始まったばかりの坊主道としての活動も今後、地域に根付く確かな集団となることは間違いなさそうです。

 

曹洞宗金龍山 常幸院

山梨県南巨摩郡身延町常葉439

0556-36-0536

http://常幸院.com