お寺豆知識 第17回 あることかたし

お寺豆知識 第17回 あることかたし

【普通って何???】

坊主道メンバー、臨済宗妙心寺派・禅林院住職・山田哲岳です。

若い世代の方は、「普通」と言う言葉を使うことが多いように感じます。

「普通に美味しい」「普通に楽しい」「普通に便利」「普通に可愛い」など。

「普通にスゴイじゃん」となると、最早どちらの意味か判らなくなりますね。

辞書で「普通」の意味を調べてみると。。。

・特に変わっていないこと。

・ごくありふれたものであること。

・それがあたりまえでありこと。など。

しかし、若い世代の方は「普通」を普通の意味としてではなく、むしろ「スゴイ」意味で使われているように感じます。

辞書に出てくる普通=それがあたりまえであること。

私たちが生きていく(生かされている)中で「普通(あたりまえ)」と言うことができるのでしょうか?

【毎日の生活の中で薄れていくもの】

子どもを授かり無事に産まれ成長して生きていくこと、それは決して「普通(あたりまえ)」のことではありません。

子どもを授かることは奇跡に近い確率です。

お母さんが十月十日もの長い間、お腹の中で苦労しながらも大切に守って下さることも、出産という男性では耐えがたい痛みと時には自身の命を危険にさらす思いをして産んで下さる。

現代の進歩した医療技術を持ってしても、残念なことに命を授かることができないこともある。

無事に産まれたとしても、いつ病気や事故、災害で命を落とすかも判らないなかで、今もどうにか「命」がある。

 

長女が1歳のときに東日本大震災が発生しました。

震災直後から何度も東北へ行き、被災された方々にお話を伺うことができました。

ご家族だけではなく友人や知人、身近な方の尊い命が奪われ命の儚さを思い知らされました。

 

【あることかたし】

東北や熊本、大阪北部地震、西日本豪雨だけではなく日本中、世界中で災害が起こり尊い命が一瞬で奪われている。

今、生かされている奇跡の命にありがとう。と感謝せずにはいられません。

この「ありがとう」、漢字では「有難う」と書きます。

命が「有(あ)ること難(かた)し」なんですね。

今年の酷暑、涼しい風を感じて、風が「有ること難し」

渇いた喉を潤す水が「有ること難し」

胸一杯に息を吸える空気が「有ること難し」

寒い冬、暖かな太陽の日差しが「有ること難し」

ご家庭で料理を作り、掃除や洗濯をしてくれることに「有ること難し」

仕事をしてくれる人に「有ること難し」

決して「普通(あたりまえ)」のことは一つもないのです。

ただ、受け取る私たちが「有ること難し」の感謝を忘れ、気が付かないのです。

臨済宗鎌倉円覚寺派前管長、足立大進老大師猊下は「花も美しい、月も美しい、それに気付く心が美しい」とよく色紙に書かれていました。

花も月も見返りも求めず「そこ」にある。

しかし、気が付かない人はただ通り過ぎていくだけ。

時には一度立ち止まり道ばたに咲く花に、夜空を見上げて月や星に「あぁ~きれいだなぁ~美しいなぁ~ありがたいなぁ~」と感じてみませんか?

冷暖房完備で便利な生活スタイル。

めまぐるしく移り変わる社会情勢。

希薄になってしまった人間関係の世の中で難しいかも知れません。

命って、生きるって普通にスゴイじゃん!

と「ありがとう」の感謝の気持ちを伝え、また周りからも「ありがとう」と感謝をされることの喜びを思い出して下さい。