第4回【あなたの街のお寺さんぽ】甲府市・禅林院
甲府市・禅林院の住職が話す「いつまでも職人気質であること」とは
かつて、戦国時代の武将で甲斐の守護大名であった武田信玄の父・武田信虎により、躑躅ヶ崎館(つつじがさきやかた)が築かれました。
そのことをきっかけに現在、武田信玄を祭神している武田神社の地に武田城下町が形成されたそうです。
当時、武田神社のある一帯には、鬼門抑えとして80院が置かれ、その中のひとつに今回訪れた「禅林院(ぜんりんいん)」があると言われています。
【あなたの街のお寺さんぽ】では初めての登場となる臨済宗。
「禅林院」の20世現住職、山田哲岳さんを訪ねました。
▲「禅林院」20世住職の山田哲岳さん
若くして「禅林院」の住職になった理由
臨済宗は、曹洞宗などと同じ禅宗のひとつ。
「公案禅」がその特徴として知られていますが、老師(師匠)から受ける公案(問題)に対して、
弟子が一心にその答えを導きだすということを教え、現在にまで広く伝えられてきました。
公案とは、老師から与えられる問題のことで有名なものとして
「両手を打つと音がする。では、片手ではどんな音がする」
という意味を持つ「隻手の声(せきしゅのこえ)」や、「犬にも仏性はあるのか」という意味の「狗子仏性(くしぶっしょう)」などがあります。
そのほとんどが、理解不能な問答で、これを「禅問答」と呼ぶようになったとも言われています。
このように公案は、知的理解は困難で非合理なものが多いのです。
しかし、この修行の中で、本来ある純粋な人間性を自らに悟れば、仏様とも変わらぬほど”人の尊さ”を感じることができると教えているのです。
甲府駅の北口から、武田神社を過ぎた先にある「禅林院」は、14派に分かれる臨済宗の妙心寺派であります。
現住職の山田哲岳さんのおじいさんが、昭和20年に山梨へ来てから、お父さん、そして現住職の山田さんがこの場所を守り続けてきました。
「父は私が17歳の時に亡くなりました。長男である私に選択肢なんてありませんでしたね。
家族の為に高校を中退して修行に行くことを決めたのです。まだ見ぬ厳しい道のりを前に、1年間だけお休みをいただきゆっくりと過ごさせてもらいました。
その後、鎌倉にある円覚寺に5年間の修行に出たのです」
山田さんは、自身が住職という道に進んだきっかけをそう話してくれました。
初日からの5日間が一番辛いと言われている円覚寺での修行は、涙が出ることはなかったものの、それはそれは苦しいものだったと話してくれました。
しかし、この場所で学んだことは、その後の山田さんの主軸をつくる大切な時間となっていたのでしょう。
「23歳で禅林院の住職になってから25年。
一般的には前住職に地域のこと、檀家さんのことなどを教えてもらえると思うのですが、私にはそれがなかったことが最初は大変でした。
少しずつではありますが、ようやく地域に溶け込み認めてもらえるようになってきた気がします。
今になって当時、老師がよく言っていた言葉を少しずつ理解出来てきたような事も実はたくさんあります」
1 行事をあまり行わない
2 お坊さん同士で連むことはしない
▲季節の移ろいを感じることのできる綺麗に手入れされた庭
坊主道のメンバーであることの意味
老師が伝えるように、山田さん自身もお坊さん同士が連むことを良く思っていないのでは?と問うと、
「坊主道の代表である近藤さんとは知人を介して知り合いました。
宗派の違うお坊さん同士が同じ志を持って活動することへの意味を強く訴えてくれた彼と意気投合したのを覚えています。
そして、近藤代表からのオファーを受けることにしました。
しかし、老師が教えてくれたように、同じ宗派のお坊さん同士で仲良くしすぎても檀家さんのためにはならないようにも感じています。
根本には、臨済宗の教えにあるように公案に基づいて答えを導き出すこと。
それは常に相手の立場に立ち物事を考えることでもあるのです。
つまりは、檀家さんを大切に思う私にとって、本当にすべきことは何なのかが見えてきたということなのではと感じています。
仲良くしている同宗派の住職に頼まれたからと言って、あまり知らないお坊さんに告別式をされても
大切な家族を亡くした檀家さんにとってはきっと嬉しくないことであろう。
行事に関しても同じことが言えます。
忙しくしていて、参加してくれた檀家さんと話すことが出来ずにその日を終えてしまっては元も子もないのです」
と山田さんは話てくれました。
そして、坊主道のメンバーになったことで、今まで知り得なかった他宗派の方の考え方を
知ることができるという坊主道の魅力についても加えてくれました。
”お坊さんも職人気質であること”
現在「禅林院」には、多くの檀家さんがいます。
そのほとんどが、近くに住む地域の人々だと言います。
今回、お話を聞いた中でも、山田さんが檀家さんを大切に思う人だということがひしひしと伝わってきました。
▲掃除の行き届いた綺麗な本堂
▲御本尊を見させてもらうこともできました
▲永代供養の納骨堂もあります
最後にこんな印象深い言葉を残しています
「仏教離れと言われている昨今。一番改めるべきは、お坊さんなのです。
本来のお坊さんの姿を、皆さんに知ってもらえたら必ずお寺へ人が集まると私は信じています。
お坊さんも本来は職人気質であるはず。その姿をもう一度みせるべきたと思うのです。
そして、常に聴き手であるということ。
自分が話すのではなく、私に話したくなる、話すと楽になれる、という立場にならなくてはいけないと思っています」
臨済宗妙心寺派
日陰山禅林院
山梨県甲府市古府中町3473
055-252-5897