第5回【あなたの街のお寺さんぽ】甲府市・敬泉寺

第5回【あなたの街のお寺さんぽ】甲府市・敬泉寺

私にできることは、伝えていくこと

山梨県の甲府盆地南部に、かつて甲斐(山梨)と駿河(静岡)を結ぶ中道往還の宿場町として栄えた場所があります。

中道往還(別名:右左口道「うばぐちどう」)は、最短路であることから多くの人が利用し、この道の整備をしたとされる徳川家康もその1人と語られています。

山間部に位置するこの地域は農作物での暮しは乏しく、住民は塩や海産物で(住民が献身的に奉仕した功労として徳川家康より海産物の売買を免税する朱印状が発行された)生計を立てていたとも言われています。

▲宿場町として栄えた仲道往還

▲かつての歴史が分かるものが集落には多く残っています。「宝蔵倉」は、敬泉寺の入り口にあります

▲「高蔵倉」

今回訪れた浄土宗「敬泉寺(きょうせんじ)」は、今でも古い宿場の風情を残す山梨の歴史的この場所、右左口集落にあります。

▲敬泉寺

 

25世住職、酒井玄暁さんを訪ねて

徳川家康にまつわる場所や、歌人・山崎方代の生家跡、直筆の歌碑など、右左口宿には「敬泉寺」を含みたくさんの見どころがあります。

▲歌人・山崎方代の歌碑

この地区で生まれ育った酒井玄暁さんが、幼い頃から当たり前だったこの風景を、魅力的な場所だと気づいたのは大人になってから。

「私の祖父は在家の生まれでした。
詳しくは知りませんが、縁あってお坊さんを志したと聞いています。
父は、そんな祖父の背中を見て育ち、敬泉寺の24世住職になったそうです。
私たち家族は、父が住職になったことをきっかけにこの集落へ移り住みました」
浄土宗は、法然上人(ほうねんしょうにん)が1175年に開宗しました。

「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)」と称え、人格を高め、社会のために尽くし、安らかな毎日を送り、死後極楽浄土に生まれることを願う信仰です。

どこで何をしていても「南無阿弥陀仏」を唱えることを進めた法然上人の教えは、やがて日本中に広く知られることになりますが、その一方で、新しい宗教であったため苦難も多かったと言われているそうです。

浄土宗のお寺は、山梨県に数多くあるとは言えませんが、同市にある「善光寺」も同宗派の一つです。

「若い頃は違う夢を持っていました。
しかし、結局は導かれるかのようにお坊さんを志す道を歩んでいたのです。
23歳の時に、当時の住職であった父の元でお勤めをはじめましたが、それだけで生計を立てるのは難しく一般企業へ就職しました。

浄土宗の青年会長になったことをきっかけに会社を退職。

現実は難しいところもあり、2018年に住職となった今でも、善光寺でお勤めをしながら敬泉寺の住職をしている生活です」と酒井さん。

▲とても美しい本堂です

▲25世現住職の酒井玄暁さん

▲敬泉寺には、甲府市の指定文化財になっているものもあります。「木造阿弥陀如来立像」

▲こちらも指定文化財になっています。附紙本墨書『阿弥陀経』一巻

これからのこと

「この辺りは、昔ながらの風情を残した美しい場所です。
境内は、少し登ったところに十一面観音のある観音堂があり、そこから眺める甲府盆地は本当に美しいです。
また、この場所にある土俵は毎年地域の子どもクラブにて活用。
春には桜の花が観音堂を彩ります。
今は古くなってしまった観音堂を整備し、多くの人が訪れてくれるスポットにすることが今後の私の課題でもあります」と酒井さんは続けます。
そしてそれと同時に、浄土宗の教えを広く後世へ伝えることへも積極的な姿勢を見せる酒井さん。

地域はもちろん、求められた場所に出向き、法話の機会を増やしていきたいと意気込みを語ってくれました。

▲観音堂を綺麗に整備し蘇らせたいと願う酒井さん

▲観音堂には土俵もあります

▲天気の良い日には、眼下に甲府盆地が広がります

 

坊主道のメンバーである意味

実は、酒井さんと坊主道の代表である近藤玄純さんは高校の同級生だそうです。
近藤さんの意思を聞いた酒井さんが、坊主道のメンバーになったのは自然の流れ。
若い頃から変わらず、探究心のある人だと近藤さんについて話してくれました。

「浄土宗の活動に参加するようになり気づいたことの一つに、横の繋がりがありました。
1人では成し得ないことって生きていれば沢山存在すると思うのです。
浄土宗を後世へ繋げていくこともそうですよね。
1人よりも何人かで力を合わせる方が良いことも時としてあるはずです。
そんなことを教えてくれたのが坊主道でした。
異なる宗派ではあるけれど、仲間である。そう思える人たちです」
昔の日本の風景を感じられるノスタルジックな集落、右左口宿にある敬泉寺。
活気に溢れたかつての日本人の暮らしに想いを馳せながら安らかな気持ちで訪れてみてはいかがでしょうか。

観音堂から甲府盆地を眺め「南無阿弥陀仏」とまずは唱えてみませんか?

 

 

浄土宗 敬泉寺(きょうせんじ)

山梨県甲府市右左口町64

055-266-4088