お寺版子ども食堂でシェフが料理をつくる理由:石田弘樹さん

お寺版子ども食堂でシェフが料理をつくる理由:石田弘樹さん

「GO飯」をつくるのはプロのフレンチシェフ!

現在、山梨県甲斐市のお寺「功徳院」で月に一度開催されている「寺GO飯(てらごはん)」は、一般社団法人SOCIAL TEMPLEが主催する、いわば“お寺版子ども食堂”です。

そんな「寺GO飯」にさまざまな形で協力するコラボレーターの方々をご紹介する今回の新企画「寺GO飯 つくるひとびと」。第1回は、本プロジェクト発足時から料理を担当するシェフの石田弘樹さんにフォーカスしました。

甲斐市功徳院

▲第25回「寺GO飯」は11月。甲斐市功徳院の本堂にはこどもたちが大集合していました。

普段あまり訪れる機会のないお寺にこどもたちを集め、保護者もまじえて皆でご飯を食べる「寺GO飯」。命をいただくことの大切さを学ぶとともに、読経や法話に耳を傾け、坐禅を体験するなどして、仏教やお寺を身近に感じてもらう活動でもあります。

そして、この活動にはお坊さんをはじめとした寺院関係者だけではなく、プロの料理人や大学生など、多様なひとびとがコラボレーターとして企画・運営にたずさわっています。

「一心+ français N.IssHin」シェフ 石田弘樹さん

▲本日はチャーハン。石田さんの専門はフレンチですが、あらゆるジャンルに対応します。

そんなコラボレーターのなかから、今回は主役である料理をつくるシェフにスポットをあてて、ご自身とお寺との関わりや本活動への思いを聞きました。

まずは、2017年の本プロジェクト発足時から料理を担当する、レストラン「一心+ français N.IssHin(エヌイッシン/以下:N.IssHin)」のオーナーシェフ 石田弘樹さんにご登場いただきます。

 

名門ホテルでの活躍を経て、地元で独立開業

「一心+ français N.IssHin」シェフ 石田弘樹さん

▲現在は国母の“カジュアルフレンチ&とんかつ”「N.IssHin」を運営する石田さん。

石田さんの本拠地は甲府市国母の「N.IssHin」。ご両親が数十年前に創業した伝統のとんかつ屋さんと、石田さんのフレンチレストランをかけ合わせたハイブリッドな洋食店です。

「小学生のころには料理の道に進むことを意識していた、、、みたいです。当時の文集を見てみると(笑)」

こどもの頃からご両親のお店を手伝っていたなかで、自然と包丁を握るようになっていったという石田さんは、プロとしてのキャリアを箱根の富士屋ホテルでスタート。名門クラシックホテルの厨房で洋食全般を担当するシェフとして活躍し、およそ12年勤めあげたのち、地元山梨へ戻り独立を果たしました。

「一心+ français N.IssHin」シェフ 石田弘樹さん

▲ランチからディナーまで幅広く対応する「N.IssHin」。2Fは60名のキャパシティも。

それが、2014年に甲府駅北口の甲州夢小路で開業したカジュアルフレンチのレストラン「N.IssHin」です。こじんまりとしたお洒落な店内で給される、地元素材を活かしたメニューの数々が人気を呼んでいた本店舗に、当時から足を運んでいた方は多いかもしれません。

その後、2018年には実家である国母にお店を移転。事業継承を機に、ご両親のとんかつ屋「一心」と融合した現在の「N.IssHin」としてリスタートしました。

 

安心・安全で、自分が本当に食べたいものを

「一心+ français N.IssHin」シェフ 石田弘樹さん

▲将来的には山梨県内で複数店舗の展開も考えているそうです。

石田さんのフレンチで一貫しているのは、安心・安全な地元食材へのこだわり。

季節感を大切にしながら、可能なかぎり地元で生産された素材を県内生産者から直接購入しているほか、「八幡芋」や「大塚にんじん」といった山梨ならではのブランド野菜も積極的に活用。素材の味を生かした“カジュアルフレンチ”が石田さんの真骨頂です。

「一心+ français N.IssHin」シェフ 石田弘樹さん

▲お皿をキャンパスに見立てた、目にも楽しいカジュアルフレンチが話題に。

「シンプルに、自分が食べたいものを出すようにしたいな、と。最近は県内でも無農薬で外来の野菜をつくる農家の方々が増えてきていますし、添加物もなるべく使わないようにしています」

また、火入れを極力ていねいに行うのがシェフとして腕の見せどころという石田さん。「火入れがベストの状態だと、余分な味付けをせずとも素材本来のおいしさを感じていただけるので」とのことです。

信玄鶏のマスタードソース」

▲地元素材を贅沢に使った「信玄鶏のマスタードソース」は開店以来の人気メニュー。

もちろん、フレンチらしい繊細かつ艶やかな彩りも「N.IssHin」ならでは。「最近はお客さんがどんどん写真を撮ってSNSにアップなさるので(笑)、どんな風に撮ってもきれいになるよう、見た目も常に意識するようにはしています」とのことでした。

 

石田さんととも立ち上げられた「寺GO飯」

「寺GO飯」

▲勢いよくチャーハンの鍋を振ります。この日は60人分(!)の超ハードワーク。

そんな石田さんですが、「寺GO飯」への参加は、実は構想がたたき台にあった頃からほぼ決まっていたそうです。「socialtemple代表近藤玄純氏より青写真の段階からお話をいただきました」

寺GO飯

▲大根のお味噌汁も並びます。ボランティアスタッフの方々が臨機応変に役割分担。

実際の運営では料理をつくるだけでなく、会場での衛生管理等でもプロの力が不可欠。そこで、当初から「面白そうだな」と感じていた石田さんは、2017年の第1回開催から料理人として腕をふるうことに。現在にいたるまで、フレンチだけでなく多種多様なジャンルのメニューを提供して、こどもたちを喜ばせています。

「今後はいろいろな料理人の方に参加していただけたらうれしいです。たとえば中華ひとつとっても、僕が鍋を振るよりは中華の方が振ったほうがいいと思いますから。ただ、スケジュールの都合もあるし、やっぱり志がないと大変ですよね。プロが無料で料理をつくるという部分にハードルを感じる料理人方もいらっしゃると思うので」

寺GO飯

▲この日は立派な落花生も。本活動に賛同してくださる方からの無償提供です。

石田さん自身は、当初から多種多様なコラボレーターが集まって新しい人脈ができたりする点も含めて、「寺GO飯」の活動に大きな面白みを感じていたそうです。

「何より、こどもたちが大喜びしてくれて、最後に笑顔で“ごちそうさま”と言ってくれるのは、やっぱり料理人としてうれしいですよね」

 

命をいただくとはどういうことか

寺GO飯

▲「両手で持ってね」と言われ一生懸命ごはんを運ぶこども。自分のぶんは自分で配膳。

そんな石田さんに、今後に向けた「寺GO飯」の活動ビジョンを伺ってみると、こんな答えが返ってきました。

「これだけたくさんの人が集まってくださって、毎回こどもたちが喜んでくれて、次回を楽しみにしてくれる。まずはそれが成果なんだと思います。一方で、今後は参加スタッフが何を得ることができるかという部分も考えていきたいですね」

料理人をはじめコラボレーターを増やすためにも、参加スタッフ側に何かしらの新たな目標、あるいは骨太な指針や意義を設けたいと語ってくれました。

寺GO飯

▲他者との関わりのなか、感謝して食べ物をいただくことも「寺GO飯」での大切な学び。

たとえば、現在の「寺GO飯」では、食べる前に「命をいただくというのはどういうことか」といったお話をお坊さんがなさっています。「そうしたテーマについて、ときにはこどもたちと一緒に料理をすることで、さらに深く考えるきっかけをつくれたら」と、石田さんは言います。

「子どもたちは今、ご飯の前後は自由に宿題をしたり遊んだりしていますが、たまには包丁を持ったり鍋で湯を沸かしたりするのもいいかな、と。少し危ないかもしれませんが、そこをきちんと指導できるようになれば、新しい意義も出てくるように思うので」

 

料理を通して食と命を考えるきっかけに

「一心+ français N.IssHin」シェフ 石田弘樹さん

▲忙しい日々のなか、「今後は新しいゴールや目標も見据えていきた」という石田さん。

あるいは、こどもたちの農業体験。土に触れ、畑を耕し、種を撒き、スタッフがサポートしながら、実りの時期には皆で収穫をしてみるという提案も、以前からなさっているそうです。

さらには、ジビエ料理のように境内で鹿の解体等を行うというアイディアも。そうした活動を通じて、命をいただくことを実感し、こどもたちが食についてリアルに考えていく場をつくりたいと話してくれました。

もちろん、お寺や仏教に親しんでもらうという大きなミッションとのバランスも大切です。「お坊さんのお話が聞きたいということで保護者の方々がお寺に集まる意義がありますから」

「信玄鶏のマスタードソース」

▲「寺GO飯」の次は「N.IssHin」でシェフの“カジュアルフレンチ”も味わってみては?

今は思いのほか反響を集め参加者が増えていることもあり、良い意味で運営自体に手一杯となっているそうですが、今後スタッフが増えていけば、こどもたちの食育に関わる部分でも意義を見出していきたいと考えているそうです。

手探りではありますが、お寺や仏教との関わりのなか、古くて新しい価値を創造・再発見していこうとするシェフの志は、こどもたち、そして地域の人々に、たしかなインパクトをおよぼしているように感じます。

<石田さんのお店情報>
一心+ français N.IssHin(エヌイッシン)
所在地/〒400-0043 山梨県甲府市国母4-16-19
定休日/水曜日
営業時間/ランチ 11:30~14:00(L.O. 13:00)
ディナー 18:00~22:00(L.O. 21:00)
※ 最大60名収容可
TEL/055-222-6491
FAX/055-269-9900
Webサイト/「N.IssHin」Facebookページ
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