お寺豆知識 第22回 掃除をして悟りを得た仏弟子のお話し
身についてしまった厄介な癖
坊主道メンバーの南アルプス市法源寺住職横山瑞法です。
私には、小学校4年生の娘と2年生の息子がいます。
子どもたちの宿題をみてあげることがあるのですが、驚いたというか情けなくなることが時々あります。
それは、「字の書き順」です。
恥ずかしながら長年にわたって書き順を間違っていた文字が平仮名がいくつかありました。
一例をあげると、私は「も」を横棒2本から書き始めていました。
子どもの宿題をみる傍らで正しい書き順で書いてみると、いつもより上手く書けたように思いました。
その後も直そうと思ってはいますが、意識していないと慣れ親しんだ間違った書き順で書いてしまいます。
きっと私も最初は正しい書き順を教わったはずなのに「やっかいな癖を身につけてしまったな」としみじみ思いました。
とても物覚えが悪い仏弟子
さて、お釈迦様に、周利槃特(しゅりはんどく)という弟子がいました。
優秀な兄の勧めでお釈迦様の弟子となった周梨槃特ですが、優秀な兄とは反対にとても物覚えが悪く、時には自分の名前も忘れてしまうほどでした。
他の弟子たちと一緒に修行に励むのですが、一生懸命に努力はするものの他の弟子たちについていけず、次第に周利槃特は周りから愚か者とバカにされるようになりました。
そんな状態が続き、ついに周利槃特は修行をやめる決意をし、お釈迦様のもとへ行きました。
修行をやめることを告げに来た周利槃特に、お釈迦様は一本のほうきを手渡し、「掃除をしながら『塵(ちり)を払い、垢を除かん』と唱えよ」と言いました。
周利槃特はそれなら自分にも出来そうだと思い、お釈迦様に言われたとおりにほうきを手に取り掃除をはじめました。
しかし、最初は『塵を払い、垢を除かん』を唱えていると思えばほうきを忘れ、掃除をしていると思えば『塵を払い、垢を除かん』と唱えるのを忘れてしまう言った具合でしたが、ただひたすらに『塵を払い、垢を除かん』と唱えながら手を動かし掃除を続けました。
そして、長年続けていくなかで周利槃特は「塵とは何か、垢とは何か」ということを考えるようになっていきました。来る日も来る日も掃除を続けた周梨槃特、ついには自分自身の心に積もった塵と垢に気付き、それらを捨てて離れることによって悟りを開きました。
誰にでもある「やっかいな癖」としての心の中の塵と垢
「心の塵、心の垢」とはこれまでの経験・体験・習慣によって自分自身の中に作り上げてしまった「偏った物事の見方や思い込み、執着の心」のことです。
周梨槃特はこれらを自覚し捨てることで、苦しみを離れて心の安らぎを手に入れることができたのです。
いつの間にか決めていたこだわりや頑固な気持ちが自分自身を苦しめてしまっていることってありませんか?
現代社会では、なかなか一つのことを長時間集中して行うことが難しくなっています。
不意に訪れた自分と向き合うべきとも言える時間、ときには余計なことを一切考えずに身の回りの掃除をして、自分自身の「心の塵と垢」を見つめる時間を持ってみてはいかがでしょうか。
ちなみにこの周梨槃特は漫画『天才バカボン』に登場するレレレのおじさんのモデルだそうです。