ご利益寺を巡ろう! 甲斐源氏を感じる「正覚寺」の摩訶不思議と禅

ご利益寺を巡ろう! 甲斐源氏を感じる「正覚寺」の摩訶不思議と禅

甲斐源氏の祖であり、平安時代の名将を弔うお寺

国道141号線。韮崎市から長野県上田市に続く道、須玉ICの近くに「陽谷山 正覚寺」はあります。

▲山門に十一面観音菩薩と五百羅漢。楼上に釈迦三尊、十六羅漢を祀る

 

樹齢800年にもなる大きな樹が聳える山門をくぐると、右手に、貞享年間に建立された鐘樓堂があり、正面には明和年間に建立された本堂があります。

▲七堂伽羅を完備し、今も鎌倉時代と変わることなく教えを導いている

1127年、平安末期に建てられたとされる正覚寺は、武田氏の先祖といわれる「甲斐源氏」の始祖であり、平安時代の名将「新羅三郎義光」の次男である「刑部三郎義清」が父をとむらう菩提寺として建てたそうです。

 

▲本尊仏は「虚空蔵菩薩」。脇立仏として「不動明王」「地蔵菩薩」を安置する

 

創立当初は天台宗だったそうですが、1430年(永享2年)、現在の場所に移転した際、曹洞宗に改宗されたといいます。

 

▲鐘樓堂は300年程前に建立されたが、資源として国に納めた鐘は昭和49年に再建

 

 

▲寛文版一切蔵経を保存した輪堂形式の珍しい建物である経蔵

味噌なめ地蔵現る

 

時は移り、新羅三郎義光から数え19代目にあたる武田信玄は、16歳にして初陣。

信濃国佐久軍の平賀源心を討ち取ったことから、信玄は、この平賀源心の菩提をとむらうことを正覚寺に依頼し、地蔵が安置されたと伝えられています。

 

信玄の信濃攻撃の際、谷間に光り輝く地蔵を見つけ、縄で縛って引いて持ち帰っていたところ、正覚寺があるこの場所で動かなくなってしまったので、ここに祀ろうとなったいう説もあるそう。

 

▲源頼義の子として生まれ、兄は八幡太郎義家である新羅三郎義光

 

お地蔵様の背中には、あるいくつもの縄の跡があり、戦場からの道でついたものといわれています。

 

当時、甲斐国では海が近くにないため塩が貴重品であり、塩でつくった味噌も大変貴重だったそう。

この貴重な味噌を自分の痛い患部に塗って願いを込めると、病気が治るということがあったため、広く「味噌なめ地蔵」は、「放光菩薩」とも呼ばれ、広まっていきました。

 

▲大門入り口にある「味噌なめ地蔵」

 

味噌なめ地蔵の体には今も新しい味噌が絶えないそうです。

また、ご住職である山本泰幸さんは、人の一番の喜びは、人が喜ぶこと。

味噌を塗ることは、お布施と同じです。お布施をしてあげたいという気持ち、必要である塩を地蔵に塗って病気を治したいと、お願いする気持ちが大切と教えてくれました。

武田信玄 は栄養源として、味噌を奨励していたといわれているので、なにか因果関係があるかもしれませんね。

▲ご住職の山本泰幸さんは39世

この「味噌なめ地蔵」は、正覚寺から歩いて5分ほどの場所にあります。

「管理はしていますが、私が気になって見に行くと、いつもきれいになっているんですよ」。

と、地域の方が掃除をしてくれ、愛されていることが伝わってきます。

▲杉戸の丹頂鶴は、山梨出身の画家である三枝雲袋氏が描いたもの

 

坐禅のこころ

 

曹洞宗と聞いて、「坐禅」と思う方は、相当お寺が好きか、歴史が好きなのでしょう。

そうです、曹洞宗は「坐禅」を説いているのです。

▲山門の摩利支天像の前には曹洞宗の教義も

 

坐禅は、今から八百年ほど前の鎌倉時代に、「道元禅師(どうげんぜんじ)」が正伝の仏法を中国から日本に伝え、「瑩山禅師(けいざんぜんじ)」が全国に広め、「曹洞宗」の礎を築かれたそうです。

ご本尊は「お釈迦さま(釈迦牟尼仏)」。祖として仰ぐ道元(どうげん)禅師(ぜんじ)の多くを求めてしまう生き方を見つめ直すために行った坐禅を、ここ正覚寺でも6年ほど前から行っています。

▲看板も掲げられている

 

「味噌なめ地蔵もそうですが、目に見えないことに対してお願いするということは、坐禅の教えを依りどころにしています。

お釈迦さまも道元禅師も多くの苦行をしてきました。辿り着いた先は、考えがなくなったとき“ただ座る”だけだったのです。実際座ったら、ちゃんとできていたじゃないかと気付きを得たんですね」。

 

過去にあった記憶、未来にある心配を追っかけて、自分の自由な活動に気付けない。そのときに座ってみると、本当に生きていることに気付かされやすい。

というのが坐禅だと…。

 

▲道場は本堂にある

 

実践によって得る身と心のやすらぎが、そのまま「仏の姿」である。と自覚することが坐禅であるともいいます。

「この身心は、今の時間、今そこにある以外、なにもない。今のありように気付いている人、気付けた人は、想いにとらわれていない人でなんですね。想いにとらわれると動けなくなってしまいますから。例えば、“足を引っ張られる”ってよく聞きますね。でも、だれも引っ張ってはいないんですよ。自分で行こうと思えばいけるのに、引っ張られたと思うから動けない。想いをほっとくことができる人は、今のありようを知っている人ということです」と話すご住職。

▲ご住職になるきっかけをもたらした観音様は、健康祈願として建てられ、凛と佇む

 

自分を大切にするだけでなく、他の人や物のいのちも大切にする、他人への思いやりが息づいてくる坐禅。

 

正覚寺では、毎月最終火曜日の夜7時から行っているそうです。

 

▲「お話をしにくるだけでもいいですよ」とご住職

私自身、禅で救われてきたこともあります。禅が取り持つご縁をつないでいきたい…。禅がご利益になれば…

 

と微笑みます。

 

▲「悩みはいろいろあるけれど、それをほっといてやり続けていいんだと思えば決心がつく」と教えてくれた

 

陽谷山 正覚寺

山梨県北杜市須玉町若神子2739

0551-42-2250