【研修会報告】猪瀬優里先生と私たちも考える「カルトと宗教と私」

【研修会報告】猪瀬優里先生と私たちも考える「カルトと宗教と私」

令和5年1月22日、15時より、山梨県甲斐善光寺を会場に、龍谷大学教授の猪瀬優理先生を講師に、「猪瀬優理先生と私たちも考えるカルトと宗教と私」と題した研修会を開催しました。今回の講義は、対面講義とオンライン配信によるハイブリッド形式で行い30名以上の方にご参加いただきました。

 

去年7月、安倍元総理が選挙演説中に銃殺された事件で、犯人の供述から旧統一教会の問題が明るみに出ることとなりました。この事件をきっかけに「カルト」についての議論が頻繁にされるようになりました。

しかし「何を持ってカルトと言うのか、正しい宗教のあり方とは」と難しい問題であるがゆえに、棚に上げて依然と曖昧なままでいる宗教者も少なくはありません。

今回の研修会は、簡単に答えを示されるのではなく、私たち一人ひとりが「カルト」「宗教」に対峙して自分の頭で考えていく契機となる貴重な時間となりました。

 

カルトとは何か?

 

まず第1パートでは、猪瀬先生から「カルトとは何か?」と言う問題を提起していただきました。

その中で、『宗教事件の内側 ー 精神を呪縛される人びと』(藤田庄市著)という書籍から引用して、カルトの問題点として取り上げられた6項目、「生命の破断・性的虐待・暴力的布教・児童虐待・金銭収奪・正体隠しの詐欺的布教」と言う観点から見た事例を挙げていただきました。

先の事件から、カルトと聞くと旧統一教会にイメージが行きがちですが、オウム真理教など実際に刑事事件としてメディアで取り上げられた教団や、過去にトラブルを起こしながらも現在も続く教団などについてもお話をいただき、カルトが持つ様々な要素を今一度確認することができました。

 

その後、参加者はテーブルごとの3、4人のグループでブレインライティングというグループワークを行いました。「カルトのどのような行動が問題なのか」をそれぞれに考え、その要素をもとにグループでカルトの定義を話し合いました。

また、オンラインの参加者もグループ分けをして話し合い、会場の参加者と同様に互いに議論を深めることができました。各グループ、様々な視点からの意見が出ており、各々他のグループの発表を聞いて新たな気づきを得ている様子でした。

全体的には、社会的に断絶され孤立してしまう、反社会的・犯罪的、マインドコントロールや巧妙な手口を使う、命の危険がある、などといった各グループから共通して挙げられていました。

 

 

お寺に問題はないのか?

 

第2パートでは、「お寺に問題はないのか?」と問題提起があり、カルトで行われていることや定義が、「お寺」にも当てはまることはないのかと参加者全員で考えていきました。ここでは、伝統教団と言われる仏教宗派に属する寺院において、実際にあった事件やトラブルを事例に挙げていただき、私たちもまたカルト性を内包しているということを学びました。

 

このパートにおいてもグループで議論が行われ、私たち自身がカルトにならないためにはどのような事に気をつけるべきなのか、どんな行動をとっていくべきなのか、が各グループで話し合われました。

その中で、どのグループも伝統教団と言われるお寺もよくよく考えてみると、カルトと紙一重であるとの声が多くあがっており、特に社会通念を逸脱した高額なお布施を要求する問題は、住職の抑制がなければいくらでも起こりうる事であると、各々身の引き締まる思いで話をされていました。

また、正しい宗教として、他者から、「奪う」のではなく「与える」ことが大切であり、檀信徒との信頼関係を築いていくことが重要であるという意見が出ていました。それぞれのグループの発表において、共通している点もあれば特有の視点の意見もあり、一人ひとりが改めての確認や新たな気づきを得ている様子でした。

 

 

最後に猪瀬先生より総括として、「カルト」の問題は、特定の「団体」や「個人」の問題ではなく、「団体」や「個人」が行う行為の問題であるとお話をいただきました。お釈迦様の言葉に「人は生まれによって賤しい人になるのではなく、行為によって賤しい人になる」とありますが、まさに私たちの行動が私たちの本質となっていくのだと改めて感じる機会となりました。

今回の講義では、カルトの問題を「カルト」という一言で済ませて思考停止に陥ってしまわずに、「何が問題なのか」「私たちは何をすべきなのか」と、自分自身の問題として考え続けていくことが大切であると気がつかせていただけました。

 

記事:坊主道・松永良樹

 


講師プロフィール

猪瀬優理(いのせ・ゆり)龍谷大学教授1974年まれ。北海道出身。北海道大大学院博士後期課程修了。専門は宗教社会学。信仰継承の要因とプロセス。宗教とジェンダーとのかかわり、宗教と地域社会とのかかわりについて研究。著書に『信仰はどのように継承されるか』(北海道大学出版会)など。櫻井義秀編『カルトとスピリチュアリティ』(2009年、ミネルヴァ書房)では、「脱会過程の諸相ーエホバの証人と脱会カウンセリング」を分担執筆した。