「思い通りにならない」を知る
「ヨダレ注意」
突然ですが、食べることは好きですか?
最近、思わずうっとりするような美味しいものに出会いましたか?
今は本当に食が豊かで、どこにいても、好きな時に、好きなものを食べられますよね。
私自身「最近何が美味しかった?」と聞かれると、しばらく考え込んでしまいます・・・。
基本的に全部美味しいんです。
強いて挙げるなら塩麹でいただいた「卵かけご飯定食」!
年齢を重ねると、シンプルな味が心と体にしみます・・・。
食べることに困らない時代を生きている私たちですが、今回は思わずヨダレが滲んでしまう、「食」に関する本と映画を紹介させてください。
『土を喰う日々−わが精進十二ヶ月−』(水上勉)・映画「土を喰らう十二ヶ月」
昭和57年に発行された『土を喰う日々−わが精進十二ヶ月−』(水上勉)という一冊があります。
著者の水上勉(みずかみ・つとむ)さんは、少年時代を京都の禅寺で過ごし、そこで精進料理の作り方を覚えました。禅寺を出てからは、様々な職業を経験し、そののちに作家デビュー。禅寺での経験をもとにした作品も多く発表しています。
『土を喰う日々』は、晩年、東京を離れて長野県の軽井沢町に移り住んだ、水上さんの「食エッセー」です。
水上さんは、軽井沢の大自然の中で「自給自足」に近い生活を送ります。
1月の食の主人公は小芋など貯蔵してある野菜と乾物。
2月は味噌の話。
初夏の5月・6月は筍や梅について。
禅寺で授かった精進料理の知恵をベースに、十二ヶ月の水上さんの食卓が丁寧に綴られています。
この作品は、2022年11月に沢田研二さん主演で「土を喰らう十二ヶ月」として映画化されました。
文字から想像していたお料理を映像で見ると、それはそれはとても尊いのです・・・。
劇中の料理の監修は土井善晴さん!
季節とともに移り変わる「本物の食卓」を表現するために、映画制作は畑づくりからはじめ、旬の食材をきちんと使って撮影が進められたそうです!
「思い通りにならない」を知る
禅寺での精進料理がベースとなっているので、本も映画もとても仏教色豊かな作品です。(私は僧侶なので特に仏教アンテナが高いのかも知れませんが・・・。)
特に本には、※道元禅師(どうげんぜんし)が書かれた「※典座教訓(てんぞきょうくん)」からの引用も多く、レシピだけに留まらない、食や生活への心構えがたくさん登場します。
※道元禅師:鎌倉時代の禅僧。曹洞宗の開祖。
※典座教訓:禅寺で食事を担当する役職の人たち(=典座)の心構えを示した書物。
そのなかで、私が特に心に残ったのは「思い通りにならない、を知る」ということ。
本にも映画にも何度も登場するのが「畑と相談する」という言葉です。
食べたいものを食べるのではなく、その時・その季節にあるものを、美味しくいただく。
今の時代を生きていると、「わかるけど、わからない」「わかるけど、できない」ことではないでしょうか?
映画の舞台挨拶にもお邪魔したのですが、中江裕司監督がこんなことをおっしゃっていました。
「ベストセラー作家である水上さんが、なぜ敢えて「不便な生活」を送ったのか。それを考えてみたら「どうにもならないもの」を見ていたかったんじゃないのかな、と思ったんです。ベストセラー作家ですから、東京に住んでいれば、大概のことは自分の思うようにコントロールできたと思います。そんな人が、晩年どこにすみたいかと考えてみると・・・それが大きかったんじゃないかなと思うんです。」(筆者の意訳が入っています。)
私たちは何でも自分の思い通りにしたいですよね。そして、それが幸せだと信じています。
食べたい時に、食べたいものを食べたい!
お金もたくさん欲しい!
好きなものや好きな人に囲まれて、毎日を過ごしたい!
でも、その先には何があるのだろう・・・。
「何でも自分の思い通りにしたい!」という欲にまみれた私には想像すらできませんが、
「思い通りにならないことがあるんだ」と納得したとき、
自分の中の「幸せの定義」が少し変わるのかな、と思いました。
それを教えてくれる先生の一人が、厳しくも豊かな自然なのかも知れませんね。
さて!きょうは何を食べよう?
『土を喰う日々−わが精進十二ヶ月−』(水上勉)・映画「土を喰らう十二ヶ月」、この作品に触れると、丁寧な食事をしたくなります。
さて、今夜は何をいただきましょうか・・・
畑・・・いや、冷蔵庫と相談ですね。