長生きは、したくない – 横山瑞法の別に危なくない法話 vol.7 –
お釈迦様の誕生
仏教の祖、お釈迦様は釈迦族という部族の王様の子ども、王子として生を受けました。
母親の右脇腹から生まれ、すぐに立ち上がり、そのまま7歩歩いて「天上天下唯我独尊(てんじょうてんげ ゆいがどくそん)」と言ったと伝えられています。
生まれた王子を占った仙人は、涙を流し「残された寿命の短い自分には、王子の行く末を見ることが出来ないことが哀しい」といいました。
仙人には王子の未来が、この世を統べる転輪聖王となるか、出家修行者となり多くの人々を救い導く聖者のどちらかになることが見えたのでした。
釈迦族は決して大きな国ではなく、隣の大国コーサラ国の属国でありました。
父である王はこの仙人の予言を受け、この子をなんとしても偉大な国王に育て国を発展させなければならない。「出家して修行者になどなられては困る」と思いました。
かくして王子は、幼少の頃から城の中でこの世のあらゆる楽しみに囲まれたような生活を送り、心に一切の憂いなど生まれないように育てられました。
出家へ-四門出遊-
しかし、王子は聡明で色々と物思いにふける性質があり、次第にこのような城の中だけで過ごす生活に満足できず、自らのありように疑問を持つようになっていきました。
ある日、王子は侍者を連れ立ち門の外へ出ようと試みます。東の門から城を出ようとすると、そこで顔がしわくちゃで腰の曲がったヨボヨボの老人と出会します。初めてそのような人を見た王子は侍者に尋ねます。
王子「あの者はどういった者だ」
侍者「あの者は老人でございます。誰しもいずれ年老いていくものです」
王子は「なんと嫌なことか」といい、城の中へと戻りまた元の生活に戻りました。この出来事を知った父王は、さらに快楽に満ちた生活を王子に与えました。
またしばらくすると、城の中の生活に虚しさを感じた王子は、侍者を連れ立ち城の外へ向かいました。
南の門から城を出るとすると、そこには糞尿にまみれて汚れて横たわった人がいました。初めてそのような人を見た王子は侍者に尋ねます。
王子「あの者はどういった者だ」
侍者「あの者は病人でございます。誰しも病を避けることはできません」
それを聞いた王子は「なんと嫌なことか」と言い、城の中へと戻りまた元の生活に戻りました。この出来事を知った父王は、さらに快楽に満ちた生活を王子に与えました。
またしばらくすると、城の中の生活に虚しさを感じた王子は、侍者を連れ立ち城の外へ向かいました。
西の門から城を出るとすると、そこには台座に横たわった人の周りに嘆き悲しむ人たちが集まっているところに出くわしました。初めてそのような人を見た王子は侍者に尋ねます。
王子「あの者はどういった者だ」
侍者「あれは死者でございます。誰しも死を免れることはできません」
それを聞いた王子は「なんと嫌なことか」と言い、城の中へと戻りまた元の生活に戻りました。この出来事を知った父王は、城に帰って思いに耽る王子を見て、「出家の可能性が高くなってしまったのではないか」と心配し、さらに、さらに快楽に満ちた生活を王子に与えました。
そして、またしばらくすると、城の中の生活に虚しさを感じた王子は侍者を連れ立ち城の外へ向かいました。
北の門から城を門を出ると、1人の出家修行者が座っていました。その人の高潔さ、静謐さに圧倒された王子は、確固たる思いでついに出家を決意することになりました。
「老」「病」「死」の避けられない「自らの苦」の自覚がお釈迦様の出家きっかけとなったのでした。
長生きは、したくない
しばらく前、当時小学3年の息子とテレビを観ていました。
たしか、たまたま流れていた長寿の方の特集をぼーっと観ていました。
それを観ながら何の気なしに、僕は息子に話しかけました。
「長生きしたい?」
すると意外な答えが帰ってきました。
「長生きは、したくない」
予想外の答えに思わず
「どうして?」
と質問を重ねました。
「だって、たくさん死ぬ人みなきゃならないじゃん」
あまりに意外なその答えと、答えの中に10年にも満たない彼の人生の中での深い思慮がうかがえたことに驚き、言葉に詰まってしまいました。
それ以来、僕の中で彼に一目置くようになりました。
先日、本当に久しぶりに家族で旅行に出かけました。
とても楽しい旅行でした。
宿坊を始めてから輪をかけて子どもと遠出ができなくなっていたので、それもあって楽しさも格別だったように思います。
家に帰って皆疲れた体で慣れ親しんだ布団に横になって少しすると、隣に毛布をかぶって寝ていた息子から「シクシク」と涙を流す声が聞こえてきました。
「どうした?」
と聞くと
「なんでみんな死んじゃうの?」
「死にたくないよ」
と、ど直球の質問が。
「なんで死ぬのかお父さんにもわからないけれど、みんな必ず死ぬことは間違いないんだよ。本当に嫌だよね」
と身も蓋もない答えを返す。
少しの沈黙の後
「旅行楽しかったね」
「またみんなで行こうね」
と重ねて言うと
「また行きたい」
と彼は答え、しばらくすると寝息が聞こえてきました。
彼は彼の人生の苦しみを、僕は僕の人生の苦しみを、それぞれ生きていく。
僕は彼の親だけれど、彼の苦しみを代わりに苦しむことはできない。
僕は彼の親だけれど、彼の人生を代わりに生きることはできない。
自分だけの人生を生きるとは、途方もなく大変なことなのだと、最近思っている。