お寺植物図鑑
なぜ、お寺には植物が多いのだろう・・・。
放送局で働いていた頃、お寺の境内に咲くお花の取材をたくさんさせていただきました。
桜、蓮、紫陽花、秋になると紅葉。
僧侶になる前は「お寺って、それぞれ看板植物が必ずあるよな〜」くらいにしか受け止めていなかったのですが、今は「そういえば、なぜお寺にはこんなに植物が多いのだろう」と疑問を抱くようになりました。
今私が住んでいるお寺の境内にもさまざまな植物が植えられていて、今年も桜から始まり、色とりどりの花が咲き乱れています。
そこで、今回は自坊の植物を紹介しながら、なぜ、その植物が植えられたのか、植物と仏教、お寺の関係をまとめてみようと思います。
まさかの花ざかり!「樒(しきみ)」
まずは「樒(しきみ)」。この春、私が最も衝撃を受けた植物です。
樒は毒を持つ植物として有名です。
浄土真宗本願寺派のお寺やお仏壇では、ご本尊の前に樒をお供えします。
そのお供えのために前住職(祖父)が境内に植えたようで、お供えの樒が枯れたら、この枝を切って取りかえるということを続けているのですが、まさかこんなに花が咲くとは!お供えは住職(父)に任せきりなので、全く知りませんでした。お供えは「青葉」と決められているので、春は花が咲いていない枝を探すのが大変なようです。
かつて樒は「お葬式にお供えする植物」だったそうです。また、土葬をしていた時代は、お墓を動物に荒らされないようにするため、墓地に樒を植えていたようです。樒が持つ毒を利用して、お墓を動物から守っていたのですね。お寺と縁の深い植物です。
お寺の定番!?「銀杏(いちょう)」
続いては「銀杏(いちょう)」。多くのお寺にある植物ではないでしょうか。
その理由のひとつが「お寺を火事から守るため」と言われています。お寺の多くは木造建築です。そのため、最も注意しなければならないのが火災。銀杏の葉は水分が多いため、火を広げず、火の手を抑えるストッパーとして植えられているそうです。
銀杏の葉の水分の多さを実感するのが、落ち葉掃除の時。とにかく重いんです!銀杏の落ち葉を集めて、塵取りですくう時は、他の葉の数倍の力が必要です。鮮やかな黄色の葉はとても美しいのですが、落ち葉と実が落ちる時期は、気合いを入れて向き合わなければならない植物です。
鮮やかな紅色の花に心奪われる「百日紅(さるすべり)」
私が自坊の植物のなかで一番好きな木かも知れません!
可愛らしい小さなピンク色の花を咲かせる「百日紅(さるすべり)」。幼い頃、鮮やかで可憐な百日紅の花はジュエリーのように貴重なもののように思えて、宝物を探すような気持ちで夢中になって落ちた花を集めていました。
この百日紅も仏教と関係が深い植物のようです。
仏教には「三大聖木」と呼ばれる三つの樹木があります。「無憂樹(むゆうじゅ)」「菩提樹(ぼだいじゅ)」「沙羅双樹(さらそうじゅ)」です。
無憂樹はお釈迦さまのご誕生に関わりのある木です。
お釈迦さまが悟りをひらかれたのが菩提樹の木の下で、お釈迦さまが入滅(お亡くなりになる)された場所にあり、花を咲かせ、良い香りを放っていたとされるのが、沙羅双樹です。
この三大聖木はインド原産のもので、もともと日本にはなく、日本の気候では育ちにくかったようです。
そこで日本にある樹木で代用したようなのですが、無憂樹の代わりとされたのが百日紅だったようです。
無憂樹は濃い黄色の小さな花を咲かせます。この姿が百日紅に似ているということが、代用の植物に選ばれた理由だそうです。
百日紅はちょうどお盆の頃に花を咲かせるので、お寺にお参りに来られた方々が楽しんでくださっています。
意外にもちゃんとつながっていた!
前住職(祖父)は動物や植物が好きな人でした。生まれ育ったお寺に様々な植物があるのは、「おじいちゃんの趣味」と思っていたのですが、それぞれの植物にちゃんと意味があったのだ!と気づくことができました。
そして、植物は「諸行無常」=全てのものは変わり続けている、という仏教の大切な教えを伝えてくれる存在です。
花が咲いて、花が散る。
瑞々しく生い茂った葉も、枯れて落ちていく。
「常に同じ姿でいることはない」と私たちに植物たちは教えてくれています。
見慣れた境内の植物と改めて向き合うことができました。
もしお寺を訪れる機会があったら、ぜひ植物にも目を向けてみてください!