ご利益寺を巡ろう!「花とえんむすびの寺」放光寺
こんにちは。山梨県ご利益寺巡り第二回です。
このコーナーを担当させていただいている、武田 紗嬉です。この企画では、カメラとペンを相棒に、お寺のご住職に取材をし、お寺の魅力を発信していきます。
第一回、ご利益寺を巡ろう!日本一の鳴き龍で有名な甲斐善光寺の歴史と魅力をご住職に聞きました こちらも是非ご覧くださいませ。
それでは、第二回 今回は甲州市の真言宗智山派の放光寺へ取材に伺いました。
放光寺の歴史
放光寺は、平安時代の武将・源義経の副大将として活躍した安田義定が、1184年に創立したお寺です。武田氏の時代には、信玄公によって戦う前の祈願所に定められました。
その後、織田信長の兵火によって、お寺のすべては焼失してしまいます。この際、佛像だけはなんとか持ち出され、戦火を逃れます。本堂や佛像の土台は江戸時代に再建されました。
戦火のなか、土台は置き去りにしても佛様だけは何としても失わないようにと、当時の人は必死に行動したのでしょうか。今の私たちの暮らしの中では疎遠な”戦い”や、佛像がどれだけ大事にされてきたのか、こうした爪痕を知ることで、当時の状況を考えさせられます。
平安・貴族文化の佛像
放光寺を創立した安田義定は、京都の朝廷での守護職を終えて山梨に戻る際に「京都の平安文化、貴族文化を山梨の人にも触れてほしい」と考えました。そして、今も祀られる(写真左から)不動明王像、大日如来像、愛染明王像の3体とともに多くの佛像をこの地に遷座(せんざ=移動)しました。
(撮影はご遠慮ください)
貴族文化
佛像のデザインは、当時の最先端・貴族文化のもの。荒々しくてちょっと怖い容姿が印象深い不動明王は、気品に満ちたスマートな出で立ちですね。大日如来の光背は優美な繊細さを持っています。中でも珍しいのは愛染明王です。
天弓(てんきゅう)の愛染明王様
三眼六腕の愛染明王の中でも、天に矢を射るお姿であるのは非常に稀であり、日本に三体しかない佛像だそうです。天弓の愛染明王様の素敵なご利益を後ほど紹介します。
放光寺ご住職、清雲俊雄(きよくもしゅんゆう)さんに聞いてみました
――どんな参拝者が来られますか
「まず観光に来られる方と、放光寺は”花とえんむすびの寺”。女性が数名でいらっしゃるなど、縁結び祈願の方が特に多いですね。」
様々なお花が咲き、四季折々の姿が楽しめる放光寺のお庭。ベンチも色んな場所に置いてありました。ご夫婦・カップルのデートスポットにもバッチリです。手を合わせて帰ってしまうのでなく”どうぞゆっくり時間を過ごしてね”のおもてなしの心を感じます。
そう。実は放光寺、拝観をするのにも、そのおもてなしの心がたくさんこもっています。
抹茶つき拝観、珈琲つき拝観
抹茶つき拝観、珈琲つき拝観では、フレンチレストランのパティシエさんにお願いして、抹茶に合う洋菓子を作ってもらい、お出ししています。
通常の拝観でも、ご案内とお煎茶をお出しします。
四季折々の精進料理
地元では、”精進料理といえば放光寺”。放光寺独特の精進料理は約50年前から続いており、地元に定着しました。その料理の基本は「家庭の味」「普段着の心」を器に盛る。
また、「ご馳走」の名の通り、境内を走り回って、旬の食材・旬の献立でお客様に接待すること。(出来るだけ貯蔵品は使わないようにしています)
四季折々献立は変わり、境内に咲く花の、椿、桜、桃の花、花菖蒲などが必ず料理に用いられます。
「檀家さんも、教徒さんも、そのどちらでない方も是非来てください」と清雲住職はおっしゃっいます。リピーターさんも多いそうです。現在は予約が10名集まった日でお出ししています。
(拝観、精進料理のご案内は最下部に参考情報を掲載しています)
――どんなご利益がありますか
「祈願には人それぞれあると思うのですが、特に放光寺が『えんむすびの寺』として幅広い世代に知られる由縁となった、”天弓の愛染明王様”のご利益です。この佛様は縁結び、恋愛成就にご利益があります。しかし、それだけではありません。
壮大な話ですが、天弓の愛染明王は、その弓矢で天の星を射て、星の光やエネルギーを世の皆に分け与えます。言わば、生きる力を与えてくれる佛様なのです。」
運命の赤い糸と言いますが、放光寺では、愛染明王像の腕から伸びる紐に、赤い紐と五円を結ぶ縁結び祈願ができます。(販売所でお買い求めいただけます)
――住職として苦労する点はありますか
「視野を広く見れば、坊主にとっては共通の課題である仏教離れの流れがあり、お寺はいま選ばれる時代になっています。リピートしてもらえるお寺になる為に、住職としての魅力、言わば”坊主力”をつけていきたいです。仏教離れはあるけれど、それは、なんとかするぞ!と活動をしています。」
例えば、ワクワクして立派なお寺に行ったとして、もしもお坊さんが近寄りがたかったり、怖かったりしたら、次に行くのは気が引けてしまいます。
私は、”お寺が選ばれる”のはここだと思います。
取材をして感じる清雲住職の人柄は、ユーモラス、かつ熱く率直に道を歩むお坊さんです。ご住職の人柄のよさは、お寺自身の最たる魅力なのかもしれません。
――好きな仏教の言葉を教えてください
「大事にしている言葉は『発菩提心』です」
発菩提心(ほつぼだいしん)とは
「自分の心に菩提心(仏教の教えへの信仰心)を起こす。という意味です。学生時代など振り返ると、どうしようもなかったなあなんて思うのですが…(笑)気づきや、きっかけがあり、発心(発心=悟りを得ようと心を起こす)しました。」
菩提心ではなくても、きっと誰もが気づきのきっかけと出会いながら歩んでいると思います。私も以前を振り返ると、どうしようもなくて笑うしかないなあ!
なんてことが沢山あります。(笑)
「自分が熱い思いをいつも起こし、まず自分が”よしやるぞ!”と行動することで、周囲の人が本当の菩提心を起こすきっかけになるのではないか、と考えています」
頑張ってる方を見ると、”自身も頑張ろう”、”彼を見習おう”と、生きるパワーをもらえる瞬間があります。清雲住職の話を聞いて、私も”よしやるぞ!”の連鎖を繋ぐ綱でありたいと感じました。
――どんなお寺にしていきたいですか
「地域とともに魂を込めて歩むお寺にしたいです。放光寺は約830年もの間、その時代時代の人たちがなんとか守りながら、この地域の中で続いてきました。
約830年間分の魂がこもっています。自身が住職となった今、この時代の当番として、地域とともに歩み次世代へ繋げる。また、その名の頂いた通り、生き生きとした光を放つお寺にしたいですね。」
歴史を顧みて、”今ここ”を大事にして、次世代に繋ぐ道を歩む清雲住職。
インタビューも終わりに近づくと「今一番伝えたい事がある、聞いてほしい事がある」とのことで、お聞きしました。
甲斐百八霊場巡り
放光寺は月に一度、山梨県内霊場を巡礼する会を行っています。会員さんとともに、日帰りで6~8ヶ寺をバスで巡ります。この恒例行事は約40年前から続いており、清雲住職が今一番力を入れている行事です。 巡礼は「多くの学びを得る、ありがたい修行です」と、清雲住職はおっしゃいます。宗派を超えて色んなお寺、お坊さんと出会うこと。そして、特に会員さんから学ぶことがとても多いのだそうです。 霊場巡りでは同行二人と書かれた袈裟を掛け、笈摺(おいづる=白い上着)にハンコを押してもらいながら1ヶ寺ずつ巡ります。
同行二人(どうぎょうににん)とは
「意味は、”同じ行いをする二人”。その二人とは自身と弘法大師 空海を指します。しかし、空海さんだけでなく、先に逝ってしまったご主人やお子さんを”同行二人”に思う方もいらっしゃいます。
霊場巡りは難所がたくさんあります。一歩を進むのも大変な場所があります。その一歩一歩を、悩みをひとつひとつ振り払っていく思いで進みます。そして、少しづつ佛様に近づき、たどり着いて、手を合わせる。巡礼から帰宅し、また日々を生き生きと過ごすことで、周囲の人たちにパワーを分け与えることができるのです」
心のケアとしての”終活”
「昨今、”終活”のワードをよく耳にしますよね。言葉の対象は主に物の整理、お金などの物質的なものが多いです。しかし、私は”心のケア”としての終活を推奨したいのです。穏やかに逝くため、体の動くうちに何をするか、何に没頭するのか」
会員さんの中にはご高齢で、普段歩けないような場所を、大事な人の名を呼びながら、歩けるようになる姿もあるそうで、清雲住職は「その姿をみて、こちらも泣けてきてしまう」と言います。会員さんの心にそっと寄り添う清雲住職の暖かさが窺えます。
「一生懸命、佛様にお参りし、信じることの強さを家族に見せることも大事です。そして、会員さんに伝えているのは、”お葬式の際に霊場巡りで身に付けている同行二人の袈裟や笈摺、御朱印帳などを一緒に入れてほしい”と、家族と約束しておくこと」
「佛様に、また先に逝ってしまったご主人に包まれながら逝くのは、究極の安心なのです」と、清雲住職は語ります。
また、会員さんたちに「私たちは法友ですよ!」と呼びかけていらっしゃるそうです。ご住職にも包まれているのです、心強い友ですよね。
「お寺としての終活を、そして甲斐百八霊場巡りの修行を、今からのお寺の在り方として皆さんにすすめていきたいです」
話からも分かるように、巡礼の方はご高齢の方が殆どだそうです。そして、私は20代前半の身です。死を意識してみても、それを目前にした時のイメージが、私にはまだ分かりません。
しかし、霊場巡りの意義は勿論、終活としてのみではありません。
実は私は20歳になる前、四国八十八ヶ所霊場に関心が強い時期がありました。(ぼさっとしてると、”寺で修行してこい!”と言う親に感化されていたのです)
ただ、かかる期間に伴う宿や食事の費用を、インターネットで知り絶望しました。日帰りかつバス移動の放光寺の霊場巡りはその心配もなく、ご住職もご一緒してくれます。
しかし、一人で飛び込むのはやはり尻込む私です…(笑) 会うたびに終活を~と言う80代の祖母に一緒にどうかと誘ってみようと思います。
いま、この記事を読んでいてくれているのはどの世代の方なのでしょう。
この霊場巡りにもし興味を持っていただけたのならば、ご自身の修行として参加されるのも素晴らしいことと思います。そして、ご家族にもこの終活を是非、おすすめしてみては如何でしょうか?
――お寺の好きなスポットを教えてください
【清雲住職】
昔ながらの作りである本堂の形がかっこよくて好きです。
【私】
私はこの黒川金山慰霊之像の造形美に、いたく感銘を受けました。冷やっとするほど美しく思いました。
当サイト”お寺のじかん”に関わる以前は、私にとって佛像は殆ど同じに見えるくらいの認識でした。(そういう同世代は一定数いるかと思っていますが、それでも本当にごめんなさい)しかし、いつの間にか魅了されています。
黒川金山慰霊之像とは
武田氏の時代に金鉱採掘が盛んに行われていた山梨県塩山市 黒川金山で、想像を絶する過酷な労働を強いられて犠牲となった人々がいたそうです。
ところが数百年来、山にまつわる無縁の精霊に香華を手向ける人もなく放置されていたところ、おいらん渕付近で変死者が多く不可解な事故が続発し、人々は大変困惑しました。
そのことを深く憂えた宮原森雄氏は、その永代供養をする為に、山にまつわる慰霊に由来のある放光寺に本像を寄進しました。日本の彫刻界 第一人者の北村西望氏の傑作です。
真言宗智山派 放光寺の御朱印
放光寺 ご案内
拝観
おひとり 300円、小中学生 100円、団体20名以上 200円
お抹茶、珈琲つき拝観
900円(パティシエさん特製お菓子)、700円(放光寺オリジナルお菓子)
精進料理
予約制です。お電話にてお申し込みください。
御朱印
300円
真言宗智山派 放光寺HP
TEL 0553-32-3340
住所 山梨県甲州市塩山藤木2438