お寺、子ども食堂、あるいはハードロックの日々:渡邉芳郎さん

お寺、子ども食堂、あるいはハードロックの日々:渡邉芳郎さん

お寺の隣の“あの看板”

「Dining 徳治」

▲ギターをかたどった看板が印象的な「Dining徳治」。2014年に開業した居酒屋ダイニングです。

山梨県甲斐市のお寺「功徳院」で月に一度開催されている「寺GO飯(てらごはん)」は、一般社団法人SOCIAL TEMPLEが主催する、いわば“お寺版子ども食堂”。

シリーズ「寺GO飯 つくるひとびと」は、その「寺GO飯」にさまざまな形で協力するコラボレーターたちの横顔を紹介する企画です。第1回に続いて、今回の第2回もメインコンテンツとなる料理を担当する方にインタビューを行いました。

「寺GO飯」

▲最近の「寺GO飯」参加者は多いときで60人ほど。月に1度とはいえ食事の準備は大作業です。

「寺GO飯」にいらしたことのある方なら、功徳院のすぐ隣に特徴的な店構えをしたダイニングがあることはご存知かと思います。

今回はそちらのマスターであり、幼い頃から功徳院を見続けてきた料理人・渡邉芳郎(わたなべ・よしろう)さんにご登場いただき、料理への思いや、ご自身とお寺との関わりなどについて伺ってみました。

 

「いつか自分のお店を」

「Dining 徳治」マスター 渡邉芳郎さん

▲福祉のお仕事に長年携わったのち、一念発起して開業を決意した渡邉さん。

ロック魂満載の外観&インテリア、そしてハードなビジュアルとはうらはらに親しみやすく、どこか懐かしい味わいのお料理が人気を呼んでいる「Dining 徳治(とくじ)」。

そのマスターが、「寺GO飯」のコラボレーターでもある渡邉さんです。

現在店舗となっている場所は渡邉さんのご実家でもあり、かつては、お祖父様からお母様へと受け継がれた鮮魚店が営まれていた場所でした。

そこで物心ついた頃からご家族の働く姿を見ていた渡邉さんは、早くから「自分の料理店を持ちたい」との思いを抱いていたそう。

そこで20代のときは洋食店で3年間修行をしたのち一度は独立開業を考えたのですが、当時はバブル崩壊直後の大不況。「今はじめても難しいから」という周囲の助言もあり、最終的にはご縁のあった甲斐市の社会福祉協議会で福祉の仕事に就くこととなりました。

 

2014年、ついに実家で開業へ

「Dining 徳治」マスター 渡邉芳郎さん

▲若い頃はご実家の鮮魚店を継ぐことも考えていましたが、時代の流れもあり別の世界へ。

しかし、そのあと結婚を経てお子さんを授かったのち、2011年に実家へ戻った渡邉さんのなかで独立への気持ちが再燃。ご家族の理解を得て、かつて鮮魚店があった場所で新しい飲食店の開業を決意します。

そうと決まれば行動あるのみ。まず、調理師免許は持っていましたが、実践で再び腕を磨こうと考え、調理師学校で約半年間、和洋中さまざまな料理を再び基礎から勉強し直しました。

そのあと甲斐市内の海鮮料理店をはじめ数店舗で、さらに数ヶ月ずつ修行を重ねてから、いよいよ開店準備に。

「大工をなさっている先輩に店のことを相談したら『全部俺に任せろ』と言ってくださって」という渡邉さん。多くの人々のサポートを得ながら、ついに2014年10月にオープンを迎えます。

 

レトロで楽しいメニューがずらり

スパゲッティナポリタン@「Dining 徳治」

▲スパゲッティナポリタンや焼きそばといった定番メニューもリーズナブルな価格で提供。

そうしたスタートした「Dining徳治」で振る舞われるのは、「私自身が小さい頃から親しんでいたような、懐かしい味」。

こだわりの日本酒や焼酎を多数そろえる一方、おつまみのほうは「赤ウィンナー炒め」や「厚切りハムカツ」等、誰もが親しめる、どこかレトロで楽しげな品々が並びます。

もちろん、ご飯ものをはじめ、ボリュームのある揚げ物等々、気取らずにお腹を満たせるメニューも豊富で、お子さま連れで楽しめるお食事処としての存在感も発揮しています。

牛すじ煮込み@「Dining 徳治」

▲いちおしメニューの「牛すじ煮込み」は6時間煮込んだ絶品。口に含むとほろほろに崩れます。

なかでも、店舗の看板メニューとして開発したのが「牛すじ煮込み」。開業前、料理道具を揃えにたびたび訪れていた浅草かっぱ橋近くの「ホッピー通り」という飲み屋街で、伝統的に多くのお店が出しているメニューだそうです。

「そのなかでも、自分が一番好きな味の牛すじ煮込みを出していたお店のマスターに『つくり方を教えてください』と、直談判したんです。で、やっぱり当初はまったく教えていただけなかったんですが(笑)、6~7回通ったら『あんたもしつこいね。それじゃあ…』と、煮込む前の3工程だけ教えていただけました」

そうして得た秘伝のノウハウをベースに、開店前の3~4ヶ月でさらに試作を繰り返して、やっと現在の味に至ったのが「Dining徳治」特製の牛すじ煮込みです。

 

入って驚く、ロックな店内

「Dining 徳治」

▲「1人でやるぶんにはちょうどいい広さ」ということで、ガレージとして使っていた場所を店舗に。

そしてもう1つ、「Dining徳治」を象徴するのが“ロックな”イメージです。

楽器をモチーフにしたインテリア等々、お店のいたるところが渡邉さんの愛するハードロックのビジュアルで彩られていることは、常連の方々ならご存知の通り。

なんと小学校5年生の頃からロックファンだったという渡邉さん。「近所のお兄ちゃんに借りたKISSのアルバムに衝撃を受けて、そこからロック一筋です」とのこと。

「Dining 徳治」マスター 渡邉芳郎さん

▲「都内のロックイベントで白塗りメイクをしたまま甲府に帰り、駅で白い目で見られたことも(笑)」

実は渡邉さん自身もバンドマンで、ハードロック路線のグループでDr.とVo.を担当。開店にあたって相談していた先輩方もロックつながりで、お店づくりでも話が通じやすかったそうです。

そうして、少しウッディなオールデイズ感を醸すアメリカンな雰囲気のなか、「ロック好きな人が集まってくれるような」イメージでお店をしつらえていったとのことでした。

 

慣れ親しんだ功徳院で

「寺GO飯」

▲「寺GO飯」は料理人以外にも数人が配膳等を支援。忙しくも和気あいあいの雰囲気で進められます。

そんな渡邉さんですが、もともと実家が功徳院の檀家ということもあり、「寺GO飯」については企画段階で功徳院住職から相談があったそうです。

「メインディッシュは石田さんが担当してくださるとのことで、『あとは調理のできる人がもう1人サポートしてくれたら』ということでお話をいただきました。それで私のほうも『ぜひ』ということで」。

そうして第1回から「寺GO飯」に参加し続けている渡邉さん。役割は料理全般のサポートで、たとえばメインと別の汁物は「Dining徳治」で渡辺さんがつくったうえで功徳院に持ち込んだりしています。

 

人に尽くすことの喜び

「寺GO飯」

▲最近は子どもとの接点が減っているというお寺ですが、月1の「寺GO飯」会場は“超”賑やか。

最近は多いときで60人ほどが参加する「寺GO飯」だけに、作業自体は相当ハードなときもありますが、「無償と言っても月に一度の話ですし、やっぱり子どもさんや親御さんがおいしそうに食べてくださっているのを見るとね」。

前職では福祉に長らく携わっていただけに、奉仕の気持ちで働くことに対しては強い思いがある渡邉さん。実はボランティアも今回が初めてではありません。

1995年の阪神淡路大震災では西日本に、そして1997年に日本海で発生したナホトカ号重油流出事故では石川県に、ともに有給を取得して個人として訪れ、ボランティア活動に明け暮れていました。

「『感謝して欲しい』といった話ではまったくなくて、シンプルに、自分のやったことが誰かのお役に立てること、あるいはそれで皆さんに喜んでいただけるというのが嬉しいですよね」と言います。

「寺GO飯」

▲今後は「たとえば簡単な料理体験を通じて子どもに“食”を学んでもらえる機会もあれば」とのこと。

それは今も同じ。「しかも、今は自分のスキルも活用できるわけで、有り難い話ですよね。お経も読めないし座禅も組めないんですが(笑)」

そこで今後の「寺GO飯」について伺ってみると、「完成した料理を食べてもらうこと加えて、いつか子どもたちと一緒にごはんをつくる機会があればと思います」という答えが。

場所や設備の問題もあるので毎回ではないものの、「たとえば年に1度、料理を通して、どんな食材がどんな風に料理へ変わっていくか、子どもが体験できる機会もあれば」。

 

お寺さんをもっと身近に

「Dining 徳治」マスター 渡邉芳郎さん

▲幼い頃の遊び場だった功徳院の庭にて。かつて寺の前には渡邉さんも通った保育園がありました。

「寺GO飯」を通して実現して欲しいと願っていることは、もう1つ。

渡邉さんにとって、小さい頃、一番の遊び場は功徳院の庭でした。「当時の住職さんたちにも本当に良くしてもらっていました。庭で遊んでいると、住職の奥さんが『これ食べな』なんてミカンをくれたり」

そんな原体験を通じて心に刻まれた思い出を振り返ってみると、今は子どもたちがお寺と触れ合う機会が減っていると感じるそうです。

「お寺さんって、ただただ仏事をやって、お墓参りをするだけの場所じゃないって思うんですよね。決して敷居が高い場所じゃないし、『寺GO飯』がないときだって遊びに来ていいんじゃないかなって」

「Dining 徳治」

▲食事メニューも豊富ですから、「寺GO飯」のあと、ご家族でちょっと寄ってみては?

その意味では、親御さんを含め、普段接点のない寺を訪れるという側面も「寺GO飯」の大きな意義になると考えているそうです。

「それぞれのご家庭に先祖のお墓があったりすると思うんです。宗派の違いは当然あると思いますが、どこのお寺さんも考え方は一緒なんですよね。宗派によってそのやり方が違うというだけで」

だからこそ、お寺さんをもっと身近に感じ、気軽に訪問してもらうきっかけづくりとして、今後も「寺GO飯」に関わっていきたいという思いを話してくれました。

<渡邉さんのお店情報>
Dining 徳治(ダイニング トクジ)
所在地/〒400-0124 山梨県甲斐市中下条1618-2
定休日/日曜日(臨時休業あり)
営業時間/18:00~24:00(L.O. 23:30)
TEL/070-2180-5487
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